カテゴリー「読書班-その他の読書」の85件の投稿

乱読なんです^^

2024年9月22日 (日)

昼行燈のつどい

「実は拙者は」という時代小説を読みました。
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本当は三島屋変調百物語の四之続から六之続のどれかを求めて書店に行ったのですが、その書店には無かった。
代わりに平積みでおいてあったこの本が目に入り、奇抜なタイトルに引かれ手に取って目次をみたら、
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もうヤバイ。面白そう。気になりすぎる。
というわけでレジまで一直線。その日のうちに読み切ってしまいました。
面白かった。

えーと、いつにも増してなるべくネタバレしないように書きたいと思いますが、真っ白な気持ちでこの小説を読もうと思っている人は以下スルー推奨。

あらすじ【実は拙者は】
棒手振りの八五郎は人に気づかれにくい地味な男。
そんな八五郎のまわりは最近やけにさわがしい。
・身分の高い侍だけを襲うが殺しはしない辻斬り「鳴かせの一柳斎」が出没し、
・金持ちから盗んだ金を庶民にばらまく「八ツ手小僧」が世を賑わせ、
・勘定奉行蓼井氏宗は金貸しの尾黒屋を操り、ニセ証文で負わせた借金のカタに集めた若い娘を黒吉原と称すいかがわしい場所に集めている噂がある。
・その噂を老中小清河為兼の命を受けた腕に覚えのある「隠密影闇同心」が追っている。
・一方ではその黒吉原の全容を将軍様直属の「公儀御庭番コンビ(忍者の頭目とくノ一)」がひそかに調べている。
時代は八代将軍吉宗の治世。

よしよし、ネタバレはしてないはず。

八五郎のいる長屋の住人たちは皆優しいが頼りない。
隣の浪人はいつまでも仕官の口が見つからないが、夜たまに不在
友人である大工の辰三の家でよく酒を飲むが、この辰三の家は大工仕事と関係ない金持ちのお屋敷の図面がやたらとある。あと夜たまに不在
なお八五郎は内職として市井のもめごとや変な噂等を定廻り同心に報告(岡っ引きの下っ引きのさらに下の犬と呼ばれる仕事。棒手振りは町内を練り歩いてて違和感が無いのでこの内職をする者が多い)して小遣いを稼いでいるが、この昼行燈同心が事なかれ主義であてにならない。情報は逐一入れろと言うが、聞くだけ聞いて何をしてる風でもない。あとたまに眼光が鋭い
長屋の飾り職人の親方は好々爺でその娘の浜乃ちゃんも愛嬌があり優しい。町娘なのに体幹が強い。ただときどき親方と浜乃ちゃんのところに四十絡みの新さんと名乗る自称旗本三男坊がなれなれしく出入りしている。浜乃ちゃんも愛想よく応対していて八五郎からすると「なんだかあのヤロー気に食わないなあ」みたいな、ともかくにぎやかな長屋。
そうこうしてるうち飾り職人の親方が尾黒屋に騙されてこしらえた借金50両のカタに浜乃ちゃんが連れ去られてしまった。影が薄く誰にも見とがめられない八五郎は尾黒屋の屋敷に使用人顔で紛れ込んだり、尾黒屋が懇意にする勘定奉行蓼井氏宗を近距離から尾行したりと孤軍奮闘。
浪人「50両かあ・・・」
大工「50両かあ・・・」
親方「娘のことは心配してくれるな。今にどうにかする」
↑あんまり真剣に心配してなさそう
同心「何? 勘定奉行蓼井が町はずれの豪奢な屋敷に足しげく通っている? そんなこと調べても何にもならんだろう。だが蓼井の動向は細かく報告しろ。まあ俺は何もしないがな」

周りの連中はあてにならない。
と、このように登場人物の構成はシンプルで、正直なところ難しい謎もなく、サクサク読めていい感じ。
難しい謎というよりも裏の顔の人たちが皆、自分を除く表の顔の人たちを互いに把握してないのでシンプルな構成にたどり着くのにちょっとモメる感じ、そこがまた面白い。

何がとは言いませんが、
「暴れん坊将軍」大江戸捜査網(懐かしい!)「服部半蔵影の軍団(懐かしい!)「鼠小僧」といった昭和のテレビ時代劇がお互いを全然知らずコラボしてる感じです。
愉快犯かと思っていたら実は目的があった辻斬り含め、すべての人物の目的が一人の人物に集約していくのも素晴らしい。

ちょっとネタバレしますが、八五郎が最後まで実は何でもない一般人だったのも好感が持てます。必死に頑張る一般人が野に隠れた凄腕達を我知らず動かしていく様がかっこいい。

とにかくこんな物騒な連中に四方八方から付け狙われている金貸しと勘定奉行がかわいそうになるお話でした。

よしよし、ネタバレはしてないはず。

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2024年3月16日 (土)

対象を自分がくさしてるのを棚に上げて、誰かがくさしてたらイラッとくる

人間とはかくも勝手な生き物です。
他県から広島に来る皆さん、タクシーの運チャンが「今年のカープはダメじゃねえ」と言ってても「そうですねえw」なんて言っちゃだめですよ。「いやいやここからですよ!」と答えましょう。

とまあ、なんか大事なこと言いますよ的な書き出しですがまったくそんなカタイ話にはなりませんのでご安心を。

「山と食欲と私」という漫画が好きで、ずっと昔から読んでおります。毎話「主人公の鮎美ちゃんが、単独で登山し、山頂で自炊し、食べて帰ってくる」というシンプルなストーリーです。

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鮎美ちゃんはニワカキャンパーが裸足で逃げ出すハードな登山を時々してて、たまに修行僧のようになってたりしますが、山を汚さないよう料理して食事して下山する、マナーの鬼で好感が持てます。

それはさておき、ずっと読んでいるうちに鷹桑秀平というサブレギュラーが増えました。
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上記画像でお分かりのごとく、ニワカキャンパーです。高い山なぞまず登らず、主にファミリー向けキャンプ場にテントを張り、見た目と聞き覚えのいいレシピの料理をSNSにアップするのが使命の、私が好きになる要素がまったくない男です。高い山に登らないので鮎美ちゃんと出会うこともないです。たまに鮎美ちゃんが低山で調整しているときに遠景にいるくらい。接点がないんで、まあ鮎美ちゃんとカップルなんかにならないよな?なるなよ。と私の気を揉むキャラです。

そんな彼が最近の話で広島に来て、宮島とかはもちろん呉にも来て。
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一連の行動を見てると、まあ悪い心根の人ではないんだろうな。でもどうせSNSにアップしていいね稼ぎなんだろうお前…と思っていたところ、ついに鷹桑の追っかけ(若い女の子)が現れました。
この女の子はSNSで見つけた「鷹桑」に気づかれないよう一定の距離を保って彼の行動をしつこく観察しております。で彼のいわゆる「ハタから見て変な行動」を見て笑い転げているわけです。

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孤独に耐えようと奮闘する鮎美ちゃんに比して、承認欲求の鬼の鷹桑は孤独には耐えられない様子。
なんかねえ、はじめて鷹桑がかわいそうと思い始めて来ました。
主人公の鮎美ちゃんは楽しい人生を送ってほしいと思いますが、鷹桑も幸せにはなってほしいなあ。彼を嘲笑の対象にしていた身としては、考えさせられる最近のエピソードでした。
(でも鮎美ちゃんには近づくなよ)

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2023年10月13日 (金)

これも映像化が難しいか!

綾辻さんの「水車館の殺人」を読みました(先日のフリマで買った2冊目)。
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話は複雑なんですがトリックはシンプルで、読みやすく面白い小説でした。
まあ何がとは言いませんが、これも映像化すると
「ああ、犯人がここにいる」
てなりますな。これも叙述トリックの部類なんでしょうか。
前作十角館の殺人が「絶海の孤島サスペンス」だったのに対し、今作いよいよ「嵐の山荘ミステリ」です。

あらすじ【水車館の殺人】
場所は岡山。人里離れた場所にひっそり建つ水車館。
1年前の嵐の夜、水車館の塔から住み込みの家政婦が墜落死し、一人の男は謎の失踪を遂げ、別な男が焼却炉で焼殺された。
警察の(ちょっとずさんな)捜査で、失踪した男が家政婦を突き落とし目撃者であろうもう一人の男を殺して焼却炉で焼いたあと逃げたという一応の解決を見た。
1年後の嵐の夜、あの事件の当事者がまた集まるが、新しく雇った家政婦が殺されまた別な男が殺される

これ、説明が難しいですね。いやトリックは割と単純で、犯人もミステリ慣れしてる人ならそんなに難しい犯人ではないです。複雑な話ではあるけど、「ああ、こういうトリックでこいつが犯人だろうな」とわかりやすい。それをネタバレしないように説明するのが難しい。

館の主人は1年前の事件よりも以前の交通事故で手足と顔に怪我を負い車椅子生活。とくに損傷がひどかった顔は白いゴムマスクをつけており、無表情でちょっと不気味。白マスクの主要人物というとやはり横溝さんテイスト満載ですが、小説はこの白ゴムマスクさん視点で進んでいきます。ここが斬新。
あと1年前の事件と今回の事件を章ごとにかわるがわる描写していくので、これがなんとも読みやすいような読みにくいような。

前作「十角館の殺人」での探偵役だった島田と名乗る痩せた中年男が今回も探偵役で、失踪した男の友人という触れ込みで白ゴムさんの前に現れ、事件にかかわってきます。

この島田、前回「建築家中村青司が建てた九州にある十角館の事件」を推理し、今回「建築家中村青司が建てた岡山にある水車館の事件」を推理する。この後の展開をよく知らないんですが、彼は中村何某の建てた館を訪れながら徐々に東京に上っていってるんですか?ロードムービー探偵かな?お宅拝見探偵かな?

しかし今回何が一番驚いたって、表紙絵を喜国雅彦さんが描いてたってこと。
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ええーーーーー!

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2023年9月26日 (火)

映像化は無理

↑無理というか映像化したとして、主な登場人物が出そろった時点で「あ、コイツ犯人」てなりますよね。

先日いったショッピングモールの駐車場でフリマをやっていて、
「ああコロナ禍のうちはこういうことできなかったのかな?」
という感慨にふけりながら1冊30円くらいの捨て値で
「十角館の殺人」
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を購入致しました。いつか読もうと思っていたので今この絶賛「勉強サボリ中の9月」しかないと。
以下なるべくネタバレしないように書きますが、ネタバレ王朝ダメーヌ派の人はここから先読んじゃダメナノヨ。

あらすじ【十角館の殺人】
春休み、絶海の孤島にやってきた大学ミステリ研の7人。迎えの船は1週間しないと来ない約束にしてある。
一方今回の旅行に参加しそびれた江南という青年(辞めミス研)は、島の元々の持ち主記名の脅迫文を受け取る。行きがかり上知り合いになった島田と名乗る痩せた中年男、同じく島行きに参加してない辞めミス研の守須と共に脅迫文の真実を探り始めるが、その頃当の孤島では本当に殺人事件が起き始め、そして誰もいなくなった


まあ面白いですよ。2晩くらいで読んじゃった。
昔の小説で、まだ固定電話の時代ですし、登場人物も老若男女バカスカ煙草吸ってます。もう吸ってない登場人物を探すほうが早いかというくらい。しかも量が多い。多分ストローでジュース吸いながら煙草吸ってると思う。息を吸うように煙草を吸う
いや多分息よりも煙草吸ってる
そういえばテレビドラマや新作小説で煙草吸ってるシーンとか見なくなりましたね。
余談はともかく、あらすじを見ておわかりのごとく、まずアガサさんのアノ小説への強烈なリスペクトがありますね。
ミス研の男女7人なのでそもそも自分たちの口から「そして誰もいなくなった」やその他「嵐の山荘系ミステリ」に関する言及があります。

あと意図的なんでしょうけど本土側の探偵も、島で解決しようとしている探偵も、まあまあポンコツですな。いや、本土にいる島田という人物は有能だし最後に真実に行き当たるわけですが、なんか積極的じゃないんですよね。引いて見てるというか、奔走する江南の横でニヤニヤ見てる感じ。メインで動いているのが江南というワトソン味やヘイスティングズ味をふんだんに醸し出すポンコツマンなので致し方なし。
島の方はもっとひどい。リーダー格でエラリィとあだ名されるスカした優男が探偵役ではありますが、1人ずつメンバーが死んでいってるのに余裕ぶってるばかりで何も解決できないし、大きい声じゃ言えないですが、犯人に殺されちゃいますしね…

とにかく犯人の労力がスゴイ。よくこれほどの行動力があったなと。
そしてこの小説はやはり2周目が面白い。犯人て結構いろんなこと言ってるんだと。アリバイのつじつま合わせも面白い。

まああえて言う必要は無いですが、強いて言えば動機が弱い。いや充分な復讐劇なんですが、島で殺された学生たちは、そこまで悪人だったかなあ。いや悪かったやつもいるけど全員均等に殺されるほどかなあと。殺した人数に見合う恨みだったかなあ。
あくまで強いて言えばですけどね。

この作家さんの他の作品も気になり始めました。

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2022年9月30日 (金)

その道のりは燻製のニシンだらけでした

なるべくネタバレはしないように心がけますが、ダメ・ゼッタイダメという人は今日の記事はスルー推奨委員会・永世顧問でお願い致します。

先日坊っちゃんが映画を見にいきました。
坊「沈黙のパレード見たんだ」
小さいころから私の教育(洗脳)によりガリレオシリーズを映像で一通り見てきたんで、最新作も気になってた様子。
五「へえ、(彼女と行ったのか?)面白かった?」
坊「メッチャ面白かった! あれは見たほうがイイヨ」

面白いと聞いた私も(映画見に行こうかな。受験も終わったし)とフワフワと考えながら、立ち寄った本屋で小説を手に取り数ページ読む。

メッチャ面白い!

即購入。
まあまあの長編ですがその日の内に読破(自己最速レコード)。

今度映画も見に行くことにしました。

あらすじ【沈黙のパレード】
商店街の人気者である定食屋の看板娘が行方不明となる。家族も常連客達も心の傷が癒えぬまま3年が過ぎた頃、まったく離れた土地のゴミ屋敷で火災があり、その屋敷の老女と共に焼死体で発見される。警察は老女の息子を調べるが、この人物「蓮沼」は、20年前に幼女誘拐・殺害の容疑で逮捕され、完全黙秘の上裁判でも証拠不十分で無罪となった男。そして今回も同様に完全黙秘を貫き、起訴すらされず証拠不十分で釈放となる。
その事実を聞かされて到底納得がいかない家族と常連客達と娘の彼氏。
商店街で毎年度開催されるパレードの日、蓮沼は居候先の部屋で遺体で発見される。
死因は窒息死。圧迫痕無し、外傷無し、暴れた様子無し。そして彼に恨みを抱く全員に強固なアリバイがあった。

この筋立て・・・
幼女誘拐の加害者が特に罪に問われず自由を謳歌しており、恨みを持っている家族や友人知人が大勢いる。

アガサのあの列車のやつですよ。
でもさすがにそんな丸パクリの内容ではないわけで。

と言いながらも東野さんは文中で、さらっと「オリエント急行」「アガサクリスティ」「エルキュールポアロ」という単語を使ってくるわけです。東野さんのニヤニヤした顔が浮かぶようです。
「そう思って読んでるでしょ? どうかなククク…」

まあ何もかもが間違ってたんですけどね。読んでる私も、登場人物それぞれの思いも。
一番びっくりしたのは通行人Aみたいな登場人物が実は事件の一番中心にいた人物だったということ。
その人物の供述で、物語は静かに閉じ始めて、
「ああ、そういう事件だったんだ…すごい小説だったなあ」
と渋い茶をすすっているところを、いきなり胸倉掴まれて巴投げされる衝撃展開。
「え!そうじゃないの?今ので終わりかけてたじゃん」
と目をシロクロさせて起き上がろうとする腕を掴まれ一本背負い。
「はあ?そ…そうなんですかァ?」

残り数ページで2~3回張り倒された感じ。すごい物語でした。
これは2度読んでうなる小説だと思います。

映画が小説をどこまで再現しているかは未見なので不明ですが、先に映画を見た坊っちゃんも同じ感想でした。
坊「あのチョイ役、頭のおかしい○○○だと思ってたのに、真面目で、忍耐強く、一番優しい人だったじゃん。あと最後らへんで全体的にひっくり返された。しかも2回くらい」

全部読んだあとで「沈黙のパレード」というタイトルを見て唸る。

ということで映画見てきます。映像で見るとウッカリ泣いてしまうかもしれない。

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2019年9月 5日 (木)

続・Nコン小説

↑厳密にいうとNHKという名称じゃない架空の公共放送なのでNコン小説ではないですが。

湊かなえさんの「ブロードキャスト」を読みました。

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これも、ずっと前から「受験が終わったら読もう」と思ってた一冊でした。この本もあまりボリューム無いので、一晩でサクサクっと読める感じ。

あらすじ【ブロードキャスト】
中学の陸上部・駅伝選手だった町田君は、陸上部が強い青海学院高校に進むことにしたが、合格発表の日、交通事故にあい「はげしい運動はできないかも」状態。
陸上部を諦め、何のためにこの学校に来たか目的を見いだせない中、声をかけられるまで知らなかった同じ中学出身の宮本君(脚本家志望)に強引に誘われて、なし崩し的に放送部に入部。「ちょっと困った存在の3年生先輩」、「ガチ勢の2年生先輩」に揉まれ、ラジオドラマ部門で全国高校放送コンテスト優勝を目指す。

この小説の存在は、先に坊っちゃんに教えてもらってました。部活内では必読の書であるとか。そらそうでしょうよ。
内容に関して、坊っちゃんの活動を3年間見てきた私には、ありとあらゆる細かい描写、大会のあれこれがわかるのですが、知らない人はこれ、難しい内容なんじゃないかなあ。
群像劇ですが、登場人物が意識的にアイコン化されてるのは読みやすくて良いと思います。

1年生:陸上部崩れ・町田(実はイケボ)。脚本家志望・宮本。宮本が強引に引き入れたアニオタ女子・久米ちゃん。
2年生:物言いがキツイ委員長先輩(女子・本名白井)。女子アナのような女子アナ先輩(本名ミドリ)。色黒でガタイの良いラグビー先輩(男子)。もめがちな3年との調整役の秀才先輩(男子)。
3年生:部長の月村先輩から順に火曜日先輩~金曜日先輩までの女子5人。

にしても、

じめっとしてますねえ。ま、主人公町田君が「夢をあきらめた青年」なので、そうならざるを得ないですが、町田君が中学の時あこがれてた陸上同級生が、輪をかけてじめっとした男で、読んでて陰鬱な気持ちになります。「無意識の悪」ってこういうのを言うんだろうなあ。それに比べて町田君を強引に放送部にひきずりこむ宮本君が、陽性で、ポジティブで、前向きで(全部同じw)へこたれず、(大きい声で言えませんが)何かといえばうじうじして悲劇にひたる3年生先輩5人や、正統派・上にも下にも一定の厳しさを持ちしかも技術力も高い2年生先輩4人にも、負けずに意見して取り入れられる姿勢は読んでて爽快ですらあります。ひきずられて町田君も少しずついいところ出てきます。

これを読む直前に、「問題を抱えながらも明るくはじける中学生君たちの小説『くちびるに歌を』」を読んでたので、よけいに落差を感じるのかもしれない。

全国大会出場作品として3年生集団がモタモタとテレビドラマ部門を作ってる最中に、2年生先輩たちは独自にラジオドキュメント部門とテレビドキュメント部門の両作品を完成させており、
委員長先輩「そちらの受け持ちのラジオドラマ、間に合うんですか」
月村部長「ラジオドラマはいいかなって」
あきれる2年生たち・・・からの

1年生宮本「脚本、書いてきていいっすか」

意外といいの書いてきた。

ラグビー先輩「これ、俺らも噛んでいいの?」
委員長先輩「ちょっと!」
秀才先輩「まあそうけんか腰にならずとも。この○○の役、おまえ向きじゃん。リポーター役はミドリ」
女子アナ先輩「え、わたしこの役やっていいの?(ノリノリ)」
委員長先輩「・・・」

と、宮本君の作品の出来を早い段階で認めて、興味を示す2年生先輩が素晴らしい。
1年生と2年生の関係性だけでも、この小説読んでて救いの部分です。
ただ、ここからこのラジドラ作品が県大会突破して全国に行ける!ってなってからの・・・

全国に行けるのは各校5名まで。

3年生5名「やった東京だ!」と、最後の年だし当然全員行けるという空気を出してる。

あきれ返っておつりがくるほどの2年生先輩。

3年生たちがいいのよいいのよ私たち・・と、じめっとした空気を出してきたところで、
2年生秀才先輩「脚本書いた宮本とドラマの主演町田、助演久米は行かせてあげたらどうですか?残り2枠は3年生皆さんでクジ引きでもすればいいでしょ。残る3年生が多ければギクシャクもしないし」

さすが秀才先輩、イケメンすぎる。

で結局5人そろって東京に行く3年生軍団ひどすぎる(笑)。

いろいろあって小説終盤でまた「町田君が中学のときあこがれてた陸上同級生」が出てくるんですが、彼が出てきたあたりでまたドス黒い空気を出してくるわけですよ。悪気はないんでしょうけど。

当初から「なぜだろう?」とモヤモヤしながら読んでたんですが、作者が湊さんなんで、そう考えたら悪意のない悪意、善意のつもりの悪意とか、少年同士の心のすれ違いとか、そういうの上手いですよね。そう考えて納得。

青春小説と思って読むから違和感があるんだなと。

というわけで、中くらいに面白い小説でした。ただ、放送部顧問なのに先生が空気オブ空気なのは納得がいかない。顧問の先生は絶対大事でしょ。坊っちゃんとこの顧問を知ってるだけに、あの空気感は無い。
あー、先生が空気だから3年生はあんななんだ。2年生がツブ揃いにデキるやつらなのは奇跡なのか。

いろいろ批判めいたこと書いてますが、素材としては非常に強力なお話だと思います。
短編に毛が生えたような小説じゃなく、上・下巻のド長編だったら、もっとハネたかもしれない。

そういう余韻を残した終わり方です。

今回の小説自体を上巻にして、続く下巻として現2年生が3年生に、現1年が2年になった話で全国を目指せば、これは盛り上がります。
・2年委員長先輩部長のもと、昨年の反省を生かしてテレビドキュメント、ラジオドキュメント部門のリベンジ
・女子アナ先輩のアナウンス部門リベンジ
・アニオタ久米ちゃんの朗読部門初チャレンジ
・宮本脚本でテレビドラマ、ラジオドラマ部門制覇。イケボの町田も吠える。
・トリッキーで問題起こしがちな1年生加入

どうですか、この下巻、面白そう!

でも湊さんの作風じゃないか^^

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2019年9月 1日 (日)

Nコン小説


中田永一さん(乙一さんの別名)の「くちびるに歌を」を読みました。

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何年か前に新垣さんで映画化されてて、DVDを借りてきても、見るヒマなく返却ということばかりやってたので、この受験の終わったタイミングで小説の方を読んでみました。ボリューム的には短編と中編の間くらいなので、サッと読めるのが良いところ。

良い小説でした。そして新垣さんの役どころである柏木先生は、なかなかの脇役ですな。映画見てないんでなんとも言えないですが、映画CMを見る限りでは主役っぽかったので、そこは意外な発見。じゃあ主役は誰なのかと・・・

あらすじ【くちびるに歌を】
長崎県五島列島の中学に、産休の松山先生にかわりその友人柏木先生(教員免許を持ってるだけで先生としては素人)が臨時教師として東京からやってきた。松山先生が顧問だった合唱部の指導も引き継ぐ柏木先生だが、今一つ身がはいらない。それまで合唱部は女子しかいなかったが、美人の柏木先生目当てに「不真面目男・ケイスケ」、「柔道部掛け持ち・リク」、「親戚の工場で働く自閉症の兄の送り迎えをしなければいけないので部活などもってのほかだが合唱部に荷物を運ばされた際、密かに心を寄せる美少女コトミ(ソプラノ)に『入部するの』と声をかけられなし崩し的に入部するぼっちのプロ桑原サトル」他数名の男子が入部する。NHK全国学校音楽コンクール長崎県大会出場にあたり、低レベル男子も加わえた混声合唱で出るのか、実力者だけの女声合唱で出るのか、元からいるナズナ率いる混声反対派女子VSケイスケら適当新入男子(と男子に色めきたつ一部女子)という抗争になるが、やる気ないはずの柏木先生の「どうせなら、全員でやりましょ」の一言で、混声合唱で挑むことになる。「まあいろいろなこと」を経て合唱部はひとつのよりあわさった声となり、課題曲・手紙(byアンジェラ・アキ)以外に「柏木先生がとある事情で作っていた未完成曲にナズナサトルで歌詞をつけた自由曲」も完成し、いざ長崎へ。しかし大会当日、松山先生が母子ともに危険な状態と知らされた合唱部員たちは・・・


もーーーーーー心持っていかれるわーーー。言いたいこといっぱいあって、いつになくあらずじ長いわーー。こんなの夜中にイッキに読んでしまうわー。

☆失踪父親がドクズなせいで男嫌いのナズナと、幼馴染の不真面目男ケイスケのつかず離れず感
☆サトルの隣の席のいかつい岩山のような柔道部リクが意外とクレバーでサトルに見せる優しさ感
☆1年のときサトルの後ろの席だった、学校の誰もが認める美少女コトミが実は闇を抱えてる感
☆そのコトミの、サトルを巻き込んだ危険な行動と縮まる距離感
☆ナズナがまだ小さかったころ彼女が落とした飴玉を拾って食べた言葉が通じない少年。そのとき母親はなんといってなぐさめてくれたかその言葉が思い出せない
☆サトルの兄(自閉症)は一度聞いた会話を忘れないという物語のかなめを握ってる感
☆中学生たちに比べ、空気感ハンパない柏木先生のぶっきらぼう感

すべてが小説の終わりにむけて収束していく様の美しさよ青春小説。


主役がナズナちゃんなのかサトル君なのかを考えますが、まあでも合唱部全員が主役だろうなあ。全員でひとつの歌になるというのがテーマでもあるし。
産気づいて母子ともに危険な松山先生のための不真面目男ケイスケの行動も素晴らしいしなあ。だから柏木先生まで濃いキャラじゃなくてもいいんや。大人は主役じゃないんや。
なおここまで読んできた皆さんには、かなりウェットな泣かせ小説のように見えると思いますが、ちょいちょい入るサトル君の独白などは「フフッ」と笑いが出るくらい、ウィットに富んでます。独白内で自嘲的に自分のことを話すとき「ぼっちのプロ」「学校生活でぼっちの才能を開花させた」「当時からぼっちの才能をにじませていたエリートぼっちの僕は」「ぼっちの求道者である僕は」「ぼっちの一級免許取得者の僕は」等々、彼の自虐は七色である。それでいてジメジメしてないし、文体がほのぼのしている。
「兄が自閉症で両親がいなくなった将来、誰かが面倒をみなきゃならないから僕は生まれてきたんだ。他の家庭の子たちのように愛情で生まれたわけじゃない。僕は計算で生まれてきたんだ。でもそれでいいんだ。兄がいなければ僕はこの世に生まれなかった」
という独白は、この文章だけ見るとなんと後ろ向きかと誤解されがちですが、むしろ前向き感にあふれ、読んでて暖かい気持ちになります。逆にナズナちゃんの独白はスピード感のある毒舌で、サトル君のパートと交互に出てくることで良いリズムになってます。ともに生い立ちのせいもあり、全編まあまあネガティブな文章のはずなのに読んでてシンドイどころかページをめくる手がもどかしいほど、ほほえましく楽しい。

骨太な小説でした。
やっぱり映画も見てみよう。

 

そして私は今からもうひとつのNコン小説「ブロードキャスト」を読むのでした。

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2017年10月25日 (水)

ファンタジー系の小説は苦手なんですよ

受験が終わったら読もう読もうと思ってた、加藤泰幸さんの「尾道茶寮 夜咄堂 おすすめは、お抹茶セット五百円(つくも神付き)」を読みました。
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ナルニア国とか、ホビットの冒険といった「のっけからファンタジーですよ」的な小説は好きなんですけど、日常に少しファンタジーが混じる小説は苦手です。
特に和物でファンタジーは苦手ですねえ。
 
なら何故読んだんだよって話ですが、まー著者を知ってるってのがあって、純粋に応援の気持ちからですね。
ネット小説への投稿で大賞取って、書籍化だそうです。
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なので、本屋で定価で購入致しました。ア●ゾンで中古を1円+送料とかでは買いませんでした。やっぱり本人に印税が行ってほしいですし。
あらすじ【尾道茶寮 夜咄(中略)神付き】
父が遺した茶店を、什器もろとも売り飛ばそうと考えていた大学生 千尋。
その茶店には茶碗のつくも神(オッサン)と棗のつくも神(黒髪美少女)が店員として住みついていて、成行きで茶店を切り盛りするハメになった千尋は、少しずつ、茶道の奥深さを知っていく。
 
上手いですね。
1本の小説ですが、短編エピソードが積み重なってる感じです。
父親(故人)が茶店をやってた割に、千尋君は茶道ド素人なんですが、上記エピソードを一つずつ体験していくにつれ、茶道のことを学んでいく構成。
 
ゆーてもそんな複雑な内容でもないですし、読んでる人が茶道に明るいか暗いかに関係なく、ド素人の千尋君とともに見聞を深めていくことになるのでサクサク読めます。
個人的には大学の陶芸部の先輩の活躍をもう少し期待したいところ。
2冊目もあるらしいので、近々時間を見つけて読みたいと思います。
ちゃっかりサインももらいました^^
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地元民としては頑張ってほしいなあ。

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2016年9月 6日 (火)

ご都合主義、極まれり

※先に謝罪します。今日の記事、乱暴でごめんなさい。
 
もうブームも去ったし、今なら読めるだろうというわけで、KAGEROUを読んでみました。
ナントカOFFという、古本屋さんのさらにワゴンセールで、娘が「謎解きは晩飯後」という小説を驚くほどの値段で発見し、じゃあ父さんがプレゼントするよってその本をつかんだとき、手が当たってついでで買ってみました。さらなる安値でしたし。
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一言でいうなら、「うそーん」ていう感じの小説でした。
 
娘が「謎解きは『お嬢様はアホで御座いますか』」を読み終わったら、口直しに貸してもらおうっと。
 
あらすじ【KAGEROU】
ビルの屋上から今まさに身投げ寸前という自殺志願の40歳独身男が、ドナー提供者を探す黒服の男に呼び止められ、説得され、自分の体を金で売る決意をする。
命とは何か? 魂とは何か?
 
・・・すみません、最後の1行、盛りました。そんな心が打ちふるえるような内容ではないです。
 
各種道具立てに説得力がないんですよね。
全日本ドナー・ナントカ協会(全ド協)という架空の団体のエージェントが、おあつらえ向きに自殺者を直前でつかまえて説得するのもアレですし、
裏世界で医療技術が進んでいて、脳も心臓も、腕も、歯も、目も、表世界の医療技術よりはるかに高度に移植でき、副作用もない的な架空技術もアレですし、
主人公である自殺志願者の、自殺に至る経緯も、心ゆさぶられるような
「ひどい人生ですね、そりゃ生きるのがつらいよ」
とは微塵も思えないのもアレですし(良い小説というのはそういうところがグイグイ引き込む読ませどころなんですが)、
中盤で心臓の弱い美少女が出てきた時点でもうアレですし、
主人公とエージェントの奇妙な友情めいた展開と、エージェントが心労がたたってきて寿命が短いな的な急な伏線もアレですし、
 
この小説を読んだ人ならおわかりと思いますが、ベッドの角度を手動で変えるハンドルが、たまたま、とある機械にもささってゼンマイ駆動に成功するとかもアレですし、
 
 
ゆーても当時批判されたのは、多少はやっかみがあるじゃんと思ってた自分は甘かった。
最後のオチのところが、好意的に読めば、3通りくらいの見方ができるわけですよ。ネタバレするわけにいかないのでボカして書きますが、
1)主人公は助かった
2)エージェントが主人公をおもんばかった
3)副作用
 
1)はまあ、魂入れ替えモノ(あ、言っちゃった)でよくある、手垢まみれのオチなので、クッッッッッッッッッッソ寒いですが、それでもなお、全ッッッッ然そんな気配も見せずに、ほんのかすかに1)を匂わせてたら、この小説は成功かもしれない。ただそれはない。あきらかに生き返ったていで書かれてるから。
研究家が現れ、何十年と賛否両論わかれて議論されるくらい、あのオチが「どっちなの?」的だったらまだ救いがあるんだけどなあ。
2)でも超絶ありきたりだし。そもそもそれだとクッソ駄作ですよ(断言)。
 
 
読むのに時間がかからないのはかすかな救い。遅読の私でも小2時間ほどで読めましたので。速読家なら30分くらいで完走できるでしょう。
 
平易な言葉で紡がれているにもほどがあるとは思いますが。
 
とりいそぎ『お嬢様はアホで御座いますね』を読みたい。

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2016年9月 2日 (金)

裏切らなかったのに裏切り者になる皮肉

恥知らずのパープルヘイズを読みました。
Zm160902
ジョジョの奇妙な冒険 第5部のスピンオフ小説です。
荒木さん本人が書かれたものではないので、私の中ではどう転んでも正史扱いにはできませんが、ファンの間では一定の評価を得ている作品のようです。
 
ええ……そうなん?
 
あらすじ【恥知らずのパープルヘイズ】
イタリアのギャング団内部で、かつての裏切り行為により「恥知らず」とあだ名されるフーゴ。贖罪の意味もかねて組織内の膿を出す仕事を仰せつかる。仲間なのか、見張りなのか2人の助っ人を従えて、あの日ジョルノ・ジョヴァーナを裏切ったフーゴは、自分を取り戻すことができるか?
石仮面もあるヨ。
 
 
とりあえず先に、知らない人のためにジョジョ5部のお話。
イタリアのギャング団(とはいうものの、街のゴタゴタを解決してくれるガラの悪い用心棒のようなスタンス)の新入りが、少しずつ人心を得て、ギャング団のボス(ひそかに麻薬を売って利益を得ていた悪い人)を倒し、自分がボスになるお話。
 
上記5部本編の途中で、本編主人公ジョルノの所属するチームがいよいよボスを裏切って打ち倒し、良いギャング団(?)になっていこうとしてるときに、ボスを裏切る勇気が持てず、主人公たちとたもとをわかち、ボス側に残ったフーゴという青年がこの小説の主人公。
 
ギャング団という組織から見たら本編主人公たちこそが裏切り者ですが、漫画の読者側から見たら、組織に残ったフーゴが裏切り者扱いとなります。
結局、自分が残った旧組織のボスは倒されてしまい、ジョルノが新ボスになってしまうので、新組織から見てもフーゴは裏切った男扱いなわけです。
 
で、ジョルノから贖罪的に、組織内に最後に残った「麻薬をひそかにさばいていたチーム」をあぶり出し討伐する任務を受けるというストーリー。
 
 
悪くはないんですけどね。
個人の感想ですが、本編とのリンクが多すぎて、ウンザリ。二次創作をやる人が、それを我慢できない気持ちはわかるんですが、料理人のトニオまでからめてこなくていーですよ。物語上、何の接点もないのに、イタリアのギャングの口から空条承太郎の名前が出てくるのには違和感アリアリだし。
石仮面も、出したからには使ってくれよと言いたい。使わないなら出さないでよとも言いたい。
 
登場人物の誰ひとりとて好感が持てないのもちょっとヤバイ。
 
好感の持てない人物の筆頭にカンノーロ・ムーロロという男がいますが、名前だけは声に出して言いたいほど好き。カンノーロ・ムーロロ。彼の群体スタンド、オール・アロング・ウォッチタワー(劇団〈見張り塔〉)というのも、名前も性能もイカス。
 
 
あくまで個人の感想ですが、4部のスピンオフ小説「THE・BOOK」の方が好き(あれもあれで完璧じゃないですが)。

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