カテゴリー「読書班-ミヤベニア」の30件の投稿

宮部さんの作品読みます

2024年11月17日 (日)

十字架を背負った6人

さて三島屋シリーズ六之続の後編、黒武御神火御殿の感想です。
Zm241117
「絶海の孤島ミステリ」とか「嵐の山荘ミステリ」とかって閉ざされた空間に集められた男女が、落ち武者とかのいにしえの呪いにちなんだ見立てにより1人ずつ殺されるものの、解決してみれば呪いでもなんでもなく現代人による財産狙いとか復讐話だったりしますが、この黒武御神火御殿はいわばそのいにしえの言い伝えの方の話です。
だからほんとに黒武者の呪いであり、ちょっとネタバレしますが集められた6人は本当に黒武者の勝手な断罪で集められた6人です。
金田一少年「犯人はこの中にいません!」

とにかく、まず語り手が黒白の間に来る前段階が「充分に長くて面白い」わけです。
------
あらためてあらすじ【黒武御神火御殿】
三島屋に質流れ品を卸す馴染みの質屋がやってきた。
質屋「うちの中年の女中が『百物語を集めてる三島屋さんに、この印半天見て貰ってください』ということで持ってきました」
富次郎「(これは百物語に対する挑戦だ。『解けるものなら解いてみろ』と、いいじゃないか。受けて立つよ)」

さてその印半天であるが、襟に「黒武」と屋号が入り、背中に四角でかこった十の字がある。四角より十の字が突き出ているので田ではない。裏地の背中部分に当て布があり、はがして見ると意味を成さないひらがなの羅列がある。暗号なのか符丁なのか、三島屋のメンバーでは判断がつかない。こうなると知り合いの博識男に聞くしかない。富次郎は印半天をかかげて瓢箪古堂・勘一のところへ。
出迎えのおちかは人妻オーラで以前より器量があがっている。
(第1期主人公カメオ出演サービス)
挨拶もそこそこにひろげた印半天に対する勘一の見立ては、

勘一 「危険な品です。当て布のひらがなは耶蘇教(キリスト経。江戸時代のほぼ全年代で幕府禁制)にかかわる文言です」
江戸時代にそんなものを所持しているだけで、お店は闕所、伊兵衛さんは軽くて遠島、普通に死罪。一気に腰が引けた富次郎は気づかぬふりで印半天を返す決意。質屋に使いに出した丁稚に様子を聞くと、その女中は笑いながら『取りに伺います』とのこと。
おのれ幕府ご禁制の物を寄越して説明もせずに鼻で笑って取りに来るだと!
よし待ってやる、どんな奴が来るんだ。

しかし待てど暮らせど女中は訪ねてこない。
じりじりしていると口入屋が来訪。

口入屋「札差の三男殿が50両払うから待ちの順番を抜かして変わり百物語に見合う話をしたいとのこと。どうしますかな?」
富次郎「(いや、今そんな気分じゃ…)」
口入屋「なんでも話の内容は今三島屋さんが預かってる印半天にかかわることだと
絶対絶命富次郎「(ああ…わたしはもう罠にハマってる。おちか教えてくれ、こんなときどうしたらいいんだ。決断できない…)」
悩んだ富次郎は自身の好奇心に負けて、札差の三男とやらを黒白の間に招くことにした。
三島屋に駕籠で乗り付けたその男を見ると顔や首筋に大きなやけど。三十路半ばらしいが髪は大半が白い。手足の指がいくつか焼け焦げたように欠損しており、歩くのも困難な様子。だから駕籠で来た。黒白の間で相対して発する言葉は喉がつぶれたかのようなしわがれ声だ。
かれこれ10年ほど前の話… 梅屋甚三郎と名乗るその男は、博打狂いであった。親の金を湯水のように使い、限界が来たので新たな金の無心先にと知人を頼みに目白方面を歩いているうち霞にまかれ、気が付くと大きな屋敷の前にいた。
甚三郎と同じように行商中やお使い最中などに迷ってたどりついた6人の男女。
・梅屋 甚三郎
・質屋の女中 お秋
・船大工の老人 亥之助

・薬屋の手代 正吉
・隠居した地主の妻 おしげ
・馬乗袴姿の侍 堀口金右衛門
迷路のように日々形が変化する屋敷を探索する6人は人数分の印半天を見つける。
背中にと染め抜いてある。
屋敷の主はこれを着ろとでも言いたいのか、真意はわからない。

やがて甚三郎の脳内に声が響いた。
「悔い改めよ…そなたらの罪を告白せい…」

十字架を背負わされた6人の男女は無事この屋敷を脱出できるのか?
------
あらすじ長いですな。これ以上端折るともう「アンタ何言ってんの」ってなる限界ギリギリですw
作中の人たちは、そりゃ江戸時代の人たちなので「テレポート」とか「謎の主催者が支配するデスゲーム」とか理解しようもなく右往左往しますが、ファンタジーとか脱出ゲーム系サスペンスとかに明るい我ら現代の読者からすると、ある程度劇中人物より先の展開が予想できて、それゆえに読んでて手に汗握って面白いところです。
屋敷の奥部に二百畳の大広間があり、そこに49枚の襖、その襖に描かれた巨大な火山の絵。それがプロジェクションマッピングのように動き、実際に小噴火をするたび溶岩がこちらに飛び散ってくるなど、理解が追い付いてない甚三郎達よりも先んじて
「ああ、これ早くどうにかしないと溶岩流に飲まれるな」
と、心配がつのります。堀口様というお侍が6人目として囚われるまでの5人はいわゆる町人ばかり。屋敷で起こる出来事に何一つ理解が及びませんが、地元九州から江戸勤めに来ているお侍さんはさすがに色んなことに詳しく、また他の5人を良く統率してくれて、ようやく迎撃態勢が整うわけで、読んでて盛り上がってくるところです。
そしてメタ的には(九州から来たということは隠れキリシタンを弾圧したあの地方の人なんだな、そして黒い武者は間違いなくかつてキリシタンで、島流しにされ恨みを持って死んで亡者となり、仇敵として堀口様は屋敷に囚われたんだな)と理解できますが、劇中人物ではいち早く事態を理解して黒い武者と刺し違えようとしている堀口様以外はまったく理解できてない。
そしてやはりメタ的な面白さとして、おかしな屋敷に囚われた6人のうち、富次郎にかかわってきているのは質屋の女中と甚三郎の2人だけ。あとの4人はいったいどうなってしまったのか?とにかくページをめくるのももどかしいスピード感のある恐怖話です。
甚三郎とお秋が共謀して富次郎をハメて語りに来たかに見えますが、実際のところ助かった2人も熱や煙に内臓をやられ、どうにか10年生きてきたが、いよいよ死期が近づいたと思える。こんなひどい目にあった人たちがいることを知ってほしい。その一念のみで甚三郎は語りに来た。あげく語り終えた疲労で意識を失って一晩三島屋で床に就き、明朝梅屋からの迎えで吊り板に乗せられ満身創痍で帰っていく無惨さ。富次郎との間に芽生えた友情もむなしく、語りに来て半月もしないうち甚三郎が亡くなったと梅屋から使いが来る。
後日、富次郎は質屋の女中お秋を黒白の間に「あなたの話も聞かせてください」と招く。半天を返そうとした三島屋をお秋が笑ったのは何故か?そのあと慌てるように50両も口入屋に払って甚三郎がやってきたのは何故か?そのあたりを語り、この巨大な話を締めくくる。
お秋と富次郎の短いやり取りが、このお話の一番の肝であり、博打狂いではあるが、サイコロを転がして狙った目が出せたときは自分が神様だと思えた甚三郎の矜持がうかがえ、そここそが一神教を信望するかつては人間だった黒い武者の逡巡のすき間だったのかなと。どんなことがあっても絶対に屋敷から逃げ出すと信じていた甚三郎がいなかったら多分全員あの屋敷で死んでいただろうなと。俗っぽい言い方ですが、甚三郎には博打の神様が着いていたから逃げ切れたんだろうと、個人的にはそういう感想です。
(なお博打…というかサイコロの神様は八之続「賽子と虻」で出てきます。さすが八百万の神々がいる国、日本)
定期的に読み返したくなる良い小説でした。

| | | コメント (0)

2024年11月 3日 (日)

そして誰それもいなくなった

三島屋変調百物語六之続黒武御神火御殿を読みました。ずっと気になってたんですよ。くろたけ・ごじんか・ごてんという文字の並び、禍々しさ、文字の並びだけでは話の内容が想像もつかないけど凄そうというワクワク感。
その期待は裏切られませんでした。面白くてイッキです。ひといきに読みすぎてアレなんで、何度か読み返したりしてました。
なお、前の巻で「第一期・完結」。この巻から「第二期・富次郎編」だそうです。
Zm241102_02富次郎一人体制になるや、口入屋の灯庵さん(ガマ仙人)から「お嬢さんはこの催しを真面目にとらえていたが、アンタ面白がってるだけだろう」と嫌味を言われるし、エピソードひとつひとつに右往左往して、おちかさんのような「落ち着いて話を聞く」というのにはかなり遠い。
そもそもガマ仙人から、
「これまでは聞き手がお嬢さんだったんで厳選して語り手を周旋してきたが、これからは加減を考えず人を寄越しますからな」
と先制パンチを貰ってます。
ちなみに怖い話は黒白の間で聞いて、そこで聞き捨て門外不出なので、口入屋があらかじめあらすじを聞いたりしてオーディションするわけではないです。灯庵さんはその語り手が嘘つきか真実を語る人かを見極めているだけだと。
富次郎「その人選のポイントを教えてくださいヨ」
口入屋「口入屋でもない米食い虫に教える義理はない」
米食い虫「口入屋秘帖というわけですねw」
ガマ仙人「そういう口の利き方が面白がってると言ってるんだ」
じっくり聞き、時に優しく時にするどく合いの手をいれるおちかさんに比べ、ちょっと軽口の富次郎君の方が作者の宮部さん的には話をころがしやすいのかなとメタ的なことを考えたり。

それにしても表題作、黒武御神火御殿…

まさかの『絶海の孤島ミステリ』!(少し違う)。

あらすじ【黒武御神火御殿】
■泣きぼくろ
というわけで富次郎一人体制に灯庵がいきなり寄越してきたのは富次郎の幼馴染で豆腐屋の末の息子。彼が10歳のころのお話で、しかも話の内容は艶話。豆腐屋の一家(両親兄弟姉妹に兄嫁次兄嫁、手代、次女の入り婿)の女性陣に、ほくろサイズのもののけが取り憑き男性陣に不貞を持ち掛け、やがて一家は離散した。
語り手「あの頃はガキだったんで何もわかってなかったけど、そういうことだったんだなって…」
富次郎「こりゃおちかに聞かせられないよな…」

■姑の墓
養蚕が盛んな村の高台にある墓所は絶景の花見ポイントだが女人禁制である。かつて語り手の何代か前の姑が「嫁をイビリ倒した挙句、毒殺し損ねて、悔しさのあまり墓所の丘で首をくくって死んだ」いわくつきの桜の名所である。特に嫁が足を踏み入れると姑の霊にたたられると言われる。実際過去に2人の嫁が高台から足を踏み外して転落死している。そんなのは偶然だ迷信だと、仲の良い嫁姑が桜シーズンに花見を決行して…

■同行二人
仕事に一途な飛脚は仕事柄、家を空けがちになる。留守の間に嫁と娘が病で亡くなった。自棄になった飛脚はよりスピードを上げ、のたれ死んでもいい勢いで仕事に精を出すが、配達途上にある峠の茶屋でのっぺらぼうの幽霊に憑かれてしまった。飛脚がどれだけスピードを上げても幽霊は着いてくる。いつの間にか飛脚は、泣きながら着いてくる幽霊を鼓舞し二人で箱根の山を駆ける。

■黒武御神火御殿
霞に覆われた迷路のような屋敷に、突如迷い込んだ年齢職業バラバラの6人の男女。囚われびと達の脳内に屋敷の主の声が響く。「悔い改めよ。灰は灰に、塵は塵に、そなたの罪を告白せい」と。そして声の主である黒い鎧の武者によって1人ずつ命を刈り取られていき…

三島屋シリーズは短編集なんですが、六之続はもう半分以上表題作の黒武御神火御殿です。黒武御神火御殿という長編小説に3つの超短編がオマケでついてる感じ。
オマケというとイメージが悪いですが、ほかの3つも面白い話です。
【泣きぼくろ】は幼馴染二人が大人になって思い返してみると「そういえばあのときの事件て、こういうことだよね」と思い至って気恥ずかしくなる話。富次郎君も(まさか黒白の間で『淫売』なんて言葉を聞くとは)などと冷汗三斗。最終的に百の物語がそろったとき、こういう艶話も一つは無いとおかしいかなという、すそ野を広げるエピソード。
【姑の墓】えぇ…宮部さんの時代物に出てくる嫁姑はほんとに関係性悪いですな。いいエピソードひとつもない。このお話も「因習なんてクソくらえの革新的な嫁」と「優しく物分かりのいい姑」の、前向きな因習乗り越え話かと思ったのに…まあこの流れだとそういうオチに行くよねと。誰一人幸せにならない、背筋が寒くなる話。語り手は明るく優しかった姑の娘。つまり語り手から見たら母親と兄嫁の話。
自身にも息子が出来、嫁が来て、つまり自分が姑になって、あの呪いから逃げられたか不安で仕方ないところ、富次郎君の口八丁で少し救われる話。
【同行二人】はもうスピード感というかドライブ感というか、まあ語り手がポジティブ(ネガティブだったけどだんだん元のポジティブが湧き出てくる)だとあんまり怖い話にはならないっすね。いい話。

そして表題作の黒武御神火御殿ですよ。これ、間違いなく長話になるんで、後編に続きます
もの知らずなもので今回初めて知ったんですが、御神火って三原山の噴火・噴煙のことを指してるんですね。造語じゃないんだ…
Zm241101
そして三原山って江戸時代でさえも「あそこは昔、流刑地だった」と言われる古い歴史のある島だったようで。そんなところにいきなり囚われて、無事に逃げろというのが無理な話で…まあそもそも囚われの6人は屋敷の外にも満足に出られなかったわけですが…
とにかく話の筋も、語りに来る人も二段構え、三段構えの大作です。ほんとに劇場版で見たい。

| | | コメント (0)

2024年10月20日 (日)

花嫁行列のシーンはちょっと泣けた

(今回勢い余ってネタバレ気味かもしれません。そしてもう少し短くまとめられないのかと反省)

宮部さんの三島屋変調百物語 伍之続 あやかし草紙の後半の感想行ってみたいと思います。
4巻の最終話「おくらさま」で貸本屋・瓢箪古堂の勘一さんは華々しくではなくそっと出てきて、何故だかおちかさんはのっけから気になる不思議な男というたたずまいでした。ウマが合う相手ということだったんでしょう。

あらすじ【あやかし草紙(後編)】
■あやかし草紙
貸本屋・瓢箪古堂の若旦那・勘一が語り手としてついに黒白の間に登壇。
勘一の父勘太郎が主に商いのメインで自身は見習い程度だった少し昔の話。瓢箪古堂の依頼で写本の内職をしていた浪人が、別な貸本屋『井泉堂』から百両という法外な報酬の写本の仕事を請けた。それはこの10年で市中にばらまかれた瓦版を閉じてある本を写し取る作業だった。仕事にかかる前、浪人は井泉堂から注意を受ける。
「字を見て写すだけでいい。文を読んで解してはいけない。読んでもいいが御身にとっていいことにはならない」
浪人はこの仕事の3年後に斬られて亡くなった。写本した瓦版には、未来において『瓦版に書かれるほどの自身の死にざま』が記されている。自然死や老衰等の生易しいものではない。後日その井泉堂から勘一にも「この仕事やりますか」と話を向けられたが、黒白の間で勘一は言う。

勘一「私は断りましたけどね。お話は以上です」
おちか「え? これで終わり?」

富次郎「まあ、原因不明のまま終わっちゃう話だってあるだろうさ」
おちか「(この人あやしい…)」

変わり百物語のルールでは、語りにくければ名前や出身地は偽っても構わないが、話を嘘で曲げてはいけない―――となっている。
貸本屋の勘一はオチのところで嘘をついたと、おちかは確信した。この話はカウント外だ。
数日後、次の語り手が来た。6人の男と結婚したバツ5の老婆の話で6人の男は全員同じ顔だった。いわば長い年月かけて一人の男に6回求婚され、添い遂げたような心持ちでもある。
もう充分生きたのでこの世の生にさほど興味が無いと明るく笑う老婆。
人生すべて味わったようなさわやかな笑顔…
この笑顔どこかで見た。そう自分の寿命を、人生をすべて知っているかのようなあの人と同じ笑顔だ。わたしはあの人に会いにいかなければならない。
数日悩んだおちかは貸本屋を訪ね勘一に告げた。
「あなたはすべて語り終えていない。長いのか短いのかわからないが、あなたの人生すべてを見届けたい。わたしを嫁に貰ってください」
勘一は一瞬驚いたが、あたかも知っていたかのように素直に受け入れた。

■金目の猫
三島屋の長男伊一郎が満を持して語り手として登場。富次郎は忘れていたが、兄は覚えていた子供の頃の話。三島屋の跡取り兄弟をそっと見守っていた金色の目をした猫の話。
年明けて一月、おちかが瓢箪古堂に嫁いで行った。

未来日記怖いですね。貸本屋の若旦那勘一は「このお話は以上です」と言うけれども、おちかさんには信じられない。昔の話から察するに、子供のころから好奇心旺盛だったこの人が、その写本の仕事を持ち掛けられて断れるわけがない。すでにその仕事を終え、自分がどういう人生を送るのか分かった男の顔だ。そう確信してプロポーズする流れが急でちょっとビックリしますが、おちかさん的には『わたしの読みが正しければ、目の前の人は誰と夫婦になるのか知っているはず』という賭けにみごと当たった感じで、勘一も答え合わせ完了という様子で飄々とプロポーズを受けてしまった。3年で斬り殺された浪人は、写本の仕事後は顔面蒼白で残される予定の娘のため出来る限りの準備を怠らなかった。その話と引き合わせても、勘一は生き急いでいる風もなく、いつものほほんとしている。実際に黒い人生なのか白い人生(もの凄い長寿で瓦版に乗るとか)なのか、おそらく勘一からおちかさんに話して聞かせることはないだろうが、一緒に生きていこう。そういう覚悟を決めた。物語の主人公としてはこれ以上無い成長の物語なのかもしれません。それと比べると全然薄っぺらい富次郎に主人公の座を譲るのはなんとなく理解できます。

次いで「金目の猫」。三島屋はおちかさんの嫁入り準備で大回転状態。特にすることのない富次郎のところに(正確には三島屋に)兄の伊一郎が奉公先の菱屋から一時帰って来る。
私以前七之続を読んで「誰なんだ富次郎!」と言っておりましたが、今回シリーズの既刊未読を立て続けに読み、感想をブログに書くにあたりうろ覚えなのもよくないと思い、昔のエピソードもパラパラと読んでると、1巻1話の時点で「三島屋にはもともと息子が2人おり、今は修行として奉公先に出ている」とか2巻2話にて「長男は伊一郎、次男は富次郎」「富次郎はおちかを見て、はやく家に帰りたいとこぼしていた」などと本人たちは出ないが噂話としてちゃんと出てくる。2巻2話という早い時点で今回の引継ぎまで考えていたとは思いにくいですが、キャラ造形は出来上がっていたようです。
さて「金目の猫」のお話自体はまあまあホンワカした思い出話で、兄弟の立場の違い、お互いを思いやっているのは間違いないが考え方の違いなど描かれており、今後の展開にも関係して来そうだなと。
いずれにしてもこのエピソードの締めくくり、おちかさんの花嫁行列はオールスターキャストで見ごたえありました。
※なお三島屋から瓢箪古堂までは3町(300㍍ちょい)です。
先頭を紋付袴の三島屋伊兵衛さん、ついで白無垢のおちかさん、手を取るのは川崎から駆け付けたおちかさんのおっかさん(泣きっぱなし@本格的に初登場)、両に控える紋付袴の伊一郎君・富次郎君は二人して三島屋の商い物を飾り付けた笹竹を肩にかつぎ(同じ格好の振り売りで一代を築いた伊兵衛の息子たちですよという町内へのアピール)、ずっと寄り添ってくれていた二人の女中おしまさんとお勝さんが形ばかりの嫁入り道具をさげてしずしずと続き、しんがりは三島屋伊兵衛の妻お民さんで、口上を述べながら続く(従者として丁稚の新太を連れて)。主な登場人物勢ぞろいでおちかさんという初代主人公をお見送り。ここは感動しますわ。お民さんの口上も美しい。
Zm241020
次の巻からとうとう富次郎君ひとりでお話を聞かなければならない。六之続・黒武御神火御殿(くろたけ ごじんか ごてん)に期待がかかります。

黒武御神火御殿ていうタイトルからして超大作の予感。

| | | コメント (0)

2024年10月13日 (日)

少しずつ次男へ移行

読書の秋ということで、現在、絶賛!宮部さんの三島屋変わり百物語シリーズ読んでしまえ期間です。
伍之続・あやかし草紙を読みました。
Zm2410012
その昔、この本が初版で本屋に平積みされてたころ、
「おお、三島屋変わり百物語もとうとう嫁入り当日の娘が花嫁衣裳のまま語りに来たか!」
とか思ってたんですが、まさかこの表紙がおちかさん本人とは…
ちなみに嫁入り数日前の娘が語りにきたことはあります。(3巻1話「魂取の池」)

さて今更ながら思うんですが、三島屋主人の伊兵衛さんは道楽者ですな。川崎にある実家の旅籠を兄に任せ、江戸に出て来て袋物の振り売りで稼ぎ倒し、お針子だったお民さんを妻に迎え、三島通りに店(ノーブランドのバッグとおしゃれ小物の店)を構えるに至るところまでは立身出世の大立者といった感じですが、店も大店になり番頭や手代に店を任せはじめると囲碁に傾倒。屋敷奥に「黒白の間」という部屋をしつらえ、碁仇を迎えて昼間から碁三昧。今日も一局と思っていたところ大口の太客に急遽呼び出され、かと言って碁仇(この日は建具商の主人)を番頭の挨拶で追い返すわけにもいかず、姪のおちかに店主代理として挨拶させて、失礼なくお帰りいただこうと思っていたらその建具商主人・藤兵衛さんが庭の彼岸花を見て、若いころの苦い思い出を語り始める(1巻1話「曼殊沙華」)
藤兵衛さんも語り終えたことにより胸のつかえが取れ、おちかさんもなにがしか知見を得た。伊兵衛は後になってこの経緯を聞き、この催しは面白い、店の宣伝にもなろうと「変わり百物語を黒白の間でお聞きします」と銘打って、不思議な話、怪異などを口入屋の灯庵(あだ名『がま仙人』)を巻き込んで集め始めた。これで、
・おちかのメンタルのリハビリも兼ねよう!
・ゆくゆくは実家の旅籠の女将としてのホスピタリティも養われよう!
というのが1巻1話であり、このシリーズの開幕話ですが、まあ伊兵衛さんがどんなに理論武装しても金持ちの道楽ですよね。
何か障りがあったときにと、隣室に「禍払いのお勝さん(黒髪柳腰の美人。普段は女中働き)」が控え(2巻2話「藪から千本」)、野次馬の富次郎がお勝さんの隣に座った(4巻4話「おくらさま」)
伊兵衛さんは振り売りから大きな店にしてずっと傾くこともないほど、商いも手を抜かないし、碁を打つ部屋を作るくらい遊びも手を抜かない両方頑張る人なので酔狂の変人ではないですが、まあどんだけ言いつくろっても金持ちの道楽ですよね(笑)。仕事に真面目なところは長男の伊一郎に引き継がれ、道楽大好きなところは次男の富次郎に引き継がれたと思います。

とまあそんな百物語の経緯を書いてみましたが、百話の内まだ二十数話しか消化してないのにおちかさんに忍び寄る勇退の影、伍之続・あやかし草紙です。
前置きが長いですが以下なるべく簡潔に感想まとめたい所存です。

あらすじ【あやかし草紙】
■開けずの間
長女が離縁され生家の金物屋に返されて来た。息子の太郎は婚家に取られたまま。長女は太郎を取り戻すため、行き逢い神(簡単に言うと死神)と取引し取り戻そうとするが、そこから短期間で金物屋の家族9人に次女の許嫁、次男の妻子、家出していた放蕩長男をも巻き込み12人中11人が死んだ。語り手はその凶事で1人だけ生き残った末っ子で、現在はどんぶり飯屋の主人平吉。あまりの惨事に隣の部屋に控える禍払いのお勝の髪にも一筋白髪が出来る。

■だんまり姫
青物問屋の隠居夫婦に女中奉公する漁村の娘は耳が遠い老夫婦独自の身振り手振り(オリジナル手話)を覚え長く仕えたが、老夫婦が相次いで亡くなった。田舎に帰ろうとしていた娘は老夫婦の息子つまり青物問屋笹間屋の主人から新たな周旋先を紹介してもらう。奉公先はその藩の殿様の御側室が住まうお屋敷。御側室の娘である小さな姫君は、生まれてから一言も言葉を発したことがない。それまでは筆談が主なコミュニケーションだったが、「老夫婦の編み出した手話をマスターした女中」なら姫にその手話を伝授しつつ、身の回りの世話もさせれば万事はかどるだろうと声がかかり、実際重宝がられた。しかしその屋敷には28年前、10歳で亡くなった少年の霊が憑いており…
涙10リットルは出る話。
話が終わったあと、おちかも富次郎も泣く。
富次郎が一晩かけて描いた墨絵でもう一度泣く。

■面の家
語りに来たのは素行が悪く言葉遣いや礼儀もなってない貧乏長屋の子娘(不機嫌)。法外な給金に目がくらみ奉公に行ったお屋敷で繰り広げられる凶事に自慢の根性もすぐに萎え、数日でお屋敷を逃げ出した。

■あやかし草紙
1人目の語り手がオチのところで嘘をついた。おちかはそう確信したため、この話はノーカン。
2人目の語り手は長い人生の中で6人の男と結婚した老女。その6人の夫は全員同じ顔。

■金目の猫
三島屋の長男伊一郎が、満を持して語り手として登場。

いやちょっと待ってくださいな。ブログの記事を書くにあたりいつもテキストファイルにベタ打ちして、校正しつつ記事にアップするんですが、だんまり姫」が濃厚すぎて、実はもっと特濃な表題作・「あやかし草紙」まで入れると長くなりすぎるので、取り敢えず前後編に分けます。「面の家」までは前編で感想書ききりたい。

とりあえず「開けずの間」の開始時点での富次郎は控えの間のお勝さんの横で、供された茶菓子の講釈を垂れながら聞き耳を立てる野次馬。黒白の間にお茶と茶菓子を運んでくるもう一人の女中おしまさんに「わたしのお菓子は3つにしてね」と催促し、お勝さんから「小旦那様には私のお菓子を差し上げます」とあやされてる。
さて語りに来たのが市中で評判のどんぶり屋の主人平吉で、自己紹介のどんぶり飯の話が始まるや否や唐紙障子を勢いよく開けて割り込んできて、「吾妻橋の<どんぶり屋>の日替わり飯こそが食道楽の極みだ(ドヤ顔)」などと恐縮する平吉をほめそやすグルメ道楽富次郎。そのままシレっとおちかさんの隣に座るが、そんなほんわかした開幕からは想像もつかない驚愕の一家皆殺し話(しかも一斉にではなく1人ずつ別な凶事)で、話し終わっておちかさん富次郎君ドン引き。当時は子供だった平吉がよく逃げ切れたなと。胸のつかえが取れた平吉の帰りがけ、お勝さんから「この禍事のもう一人の生き残り『長女の息子太郎さん(長女の死後早い段階で寺に出された)』に会いに行くと良いですよ」とのアドバイス。なので厳密に言うと13人中11人が死んだ。なんだかんだで次の話以降もおちか富次郎で語り手の話を聞くスタイルに。

そして次の「だんまり姫」ですよ。語りに来たのはおせいという名の飄々としたおばあさん。まだ娘だった昔、お仕えした藩の側室の娘(正室の方ではない)が声が出ない。おせいさんだけに存在が認知できる「亡者となってしまいお屋敷に憑いている10歳の少年」は言う。
「自分が原因なのはわかっている。自分が消えて無くなればあの娘は話せるようになるだろう。しかしここから離れる術を知らない」
まあさらに言えば自分が何者かは当然知っているし、28年前、藩が二つに割れた跡継ぎ騒動を納めるため、毒を盛られ三日三晩熱を出して死んだことも、毒を盛ったのが誰かも知っているがその者を恨んではいない。現在の殿様がもう一人の跡継ぎ候補で正室の子だった。自分は側室の子だったから仕方ないと言い、とはいえその娘が声が出ないのは心が痛むとも言う。

これはねえ、読んでて泣きますわ。ツライ。亡者が健気でツライ。すべてが終わって姫君も話せるようになるのでお姫様の周りの人からするとハッピーエンドですが、事情を俯瞰で知っているおせいさんやそれを聞いてるおちかさん・富次郎、読者は胸がギュっとなる結末。富次郎君が最後に描いた墨絵で少し救われます。

ついで「面の家」は小休憩話といっていい怖い話。大量の魍魎を封じているお屋敷の見張りを頼まれた娘の話ですが、「人間の心が怖い」とか「人間の想いが強い」といった前2話と比べるまでもなく平板(ツマラナイわけではないです)。語り手が口入屋の周旋を無視して無理やり上がり込んできた貧乏長屋の子娘で口も悪いが手癖も悪いで、しかも話しの途中で「もういい!」と言って一回帰った(笑)。後日長屋の差配さんに促されて今度は少ししゅんとした感じで語りに来る顛末が、このシリーズの新しい彩りとして記憶に残る話(「面の家」って、あーあのはねっかえりの不良娘がヒドイ目にあった話ね…みたいな)。おちかさんはここまで来ると相手がどんな状態でも語らせてしまうし、富次郎もなだめたりすかしたりちょっと脅してみたりとサポートとして有能。
富次郎が控えの部屋からおちかの隣、そして話を聞き終わってから墨絵を1枚描いて(絵を習ったことはある)、お勝さんに見てもらう流れが確立していく前半3話でした。

ということで、「あやかし草紙(貸本屋若旦那勘一の話と長寿の老女の話)「金目の猫(三島屋長男伊一郎の話)は後編で。

| | | コメント (0)

2024年9月29日 (日)

大事な人が去っていった

いきなり七之続を読んだ反省をふまえ、素直に順番に読んでいこうということで、「三鬼」を読みました。
言わずと知れた宮部みゆきさんの三島屋変調百物語の四之続になります。
Zm240926
表題作「三鬼」はやはり読み応えある大作なんですが、このシリーズのファン的には次の「おくらさま」ですよ。
もう内容が盛りだくさんすぎて濃すぎて胸やけしてちょっと横になりたい感じ。

あらすじ【三鬼】
■迷いの旅籠
一人のマッドサイエンティストが田舎の村を巻き込んで行う死者よみがえり実験は当然のごとく失敗し、大惨事を巻き起こす。そんな未曾有の大惨事なのに、語り手がオドオドした12歳の女の子というギャップがじわじわ来る話。

■食客ひだる神
三島屋が花見イベントの時に注文する仕出し弁当屋は評判の繁盛店だが、花見が終わると秋の紅葉狩りシーズンまで閉店となる。弁当屋の店主は若い頃からひだる神という餓鬼に憑かれており、ひだる神が太り過ぎないよう「夏季限定ひだる神ダイエット作戦」が展開されていた。店主が超ポジティブなため、百物語でおそらく後にも先にもない全編オモシロ話。

■三鬼
妹をかどわかされ傷物にされた侍が私闘により敵討ちを行ったため、これまた別件で微罪を犯した気の短い砲術士と共に寒村の警護職に就く沙汰となる(要するに飢饉スレスレの貧しい村に懲罰を兼ね『死んだら死んだでまあいいか』的な左遷)。そこには弱った老人や病気の子供だけを狙って命を奪う鬼がいた。侍と砲術士は生きて帰ってくることができるか?そもそも鬼とは誰のことなのか。
仲の悪いバディがなんだかんだ力を合わせ解決に向かう燃え話。

■おくらさま
美仙屋という屋号の香具屋には、姿は見えないが「おくらさま」という守り神がいて災厄から屋敷を守っている。大火事の延焼もおくらさまの御力(みりき)によって美仙屋だけススひとつ付かず焼け残った。が同時におくらさまも力を使い果たし消滅。おくらさまが消え去る刹那、美仙屋のその代の娘をひとり、次のおくらさまとして人の世から連れ去ってしまう。美人三姉妹(17歳「藤」、15歳「菊」、14歳「梅」)の中で一番綺麗だったお菊お姉さまを取られた三女の梅は激しくいきどおり、守り神として存在はしているが、姿が見えなくなったお菊に寄り添うように屋敷の奥に引きこもる。語り手はそのまま老婆となったお梅さんだが、語り終えるとともに姿を消す。お梅さんが消える瞬間おちかも気を失ってしまい、夢だったのか現実だったのか判然としない。真偽を確認するため「美仙屋・香具屋」というキーワードから、貸本屋に「江戸買物独案内(えどかいものひとりあんない)」をバックナンバーごと借り受け、その貸本屋の若旦那も巻き込み、富次郎主導で一大捜索がはじまるが…

おくらさまの説明長いんですけどね。
この話の本質はここじゃないんですよ。
おくらさまについてお梅おばあさんの語りが始まるよりも前段階、
まず恵比寿屋に奉公に出ていた三島屋の次男富次郎が、奉公先で手代同士の喧嘩に巻き込まれ転んだ際、頭を強く打って意識不明の重体。どうにか意識を取り戻したが、しばらくはめまいと頭痛でまともに奉公ができない…というか恵比寿屋の真摯な謝罪のもと三島屋に帰されてきた(ここで富次郎が初登場)。当面はプラプラとニート暮らし。さっそくおちかの「変わり百物語」に興味を示し、隣の部屋でこっそり話を聞きたいとお調子者全開。
それはまあいいですわ。それと相前後して、別小説からのスピンオフでサブレギュラー入りしていた青野利一郎が久しぶり登場。一度禄を離れ、浪人暮らしで子供向け手習い塾の雇われ先生をやっていて、雇い主の老先生の家に住み着いた魔物の話(2巻表題作「あんじゅう」)を語りに来たあの若先生が、どうやら故郷で士官の口が見つかったらしい。見つかったというか旧知の先方から入り婿として来て欲しいと。明日をも知れぬ病身の友人から頼まれて、利一郎は断りにくいしそもそも浪人から侍に返り咲き。おちかさんはこの話を聞いて以降、気持ちのよりどころが無い。泣いてすがって行かないでと言える立場ではないし、そんな性格でもない。利一郎はおちかさんの気持ちを知ってか知らずか必要以上に語らず。
いずれこの二人は結ばれるんだろうなと思っていた読者も寝耳に水。
そんなふわふわした状況ではあるものの、目の前で忽然と消えたお梅さんの謎を追うため、貸本屋の持ってきた江戸買物独案内(るるぶとか東京ウォーカーみたいな感じ。宮部さんの創作かと思ったら実在した物らしい)を大量にめくっていく。同時に貸本屋自身にも心当たりを当たってもらい、ついに実在したお梅さんのところにたどり着くが、もうほぼ臨終の床。お梅さんは自分の寿命が残り少ないことを悟り、生霊となっておちかさんの元へ、どうしても聞いて欲しい話をしにいった。
今わの際のお梅さんから「わたしのようになってはいけない」との言葉を貰ったおちかさんは、新しい場所へ踏み出せるのか?

という内容です。
手習い塾の若先生は、別作品で辛い身の上から始まり、三島屋シリーズにやってきて、おちかさんに暖かい光をさしかけながら、誰がどこから見ても文句の付けようがない理由で物語から去っていきました。そして同時にレギュラー入りする富次郎貸本屋の若旦那次巻「あやかし草紙」が待たれる。

ちなみに「おくらさま」が極厚エピソードすぎて他がかすみがちですが、「迷いの旅籠」はヤベエ話だし、劇場版のような「三鬼」も
「これ1本で小説いけるんじゃね?」
という極太話。それらに挟まれて「食客ひだる神」はずっと愉快な落語を聞いてるようなほんわかエピソードで最後ちょっと泣かせる話。

珠玉のエピソード群で読み流していくにはもったいないですが、後がつかえてますので、次いで「伍之続・あやかし草紙」を読みたいと思います。わかってますよ。この巻、大事な話ですよね。

| | | コメント (0)

2024年9月15日 (日)

まさかの主役交代

魂手形(たまてがた)という小説を読みました。
Zm240913
宮部みゆきさんの続き物「三島屋変調百物語」の七之続つまり7巻目になります。
【そもそも三島屋変調百物語とは】
川崎宿の旅籠の娘・おちかさんが生家であったトラウマ(三角関係のトラブル。一人は殺され、一人は自死)を癒すため叔父が商いをしている江戸の三島屋で行儀見習いをしているところ、色々なことが重なって、来客がもたらす「本当にあった怖い話」を聞く役を務めることとなる。
百話聞くのはメタ的な俯瞰要素であり、おちかさん自身が「百話聞くぞ!」と目指しているわけではないです。
私は参之続「泣き童子」まで読んで、そのあたりから今の受験生生活が始まったので、このシリーズどころか小説をとんと読まなくなったのですが、ついこの間旅先で七之続を購入。読んでみようかなと思ったわけです。
なぜなら
①三島屋シリーズは短編集。1冊につき3話~5話ほど「怖い話」が1話完結で収録されており何巻のどこから読んでも問題がない
②七之続はなぜか収録話も小編3話しかなく手にとりやすかった
③旅先の割引キャンペーン(30%オフ)に乗ってお安く購入できた

そんなわけで①の理由もあり四之続~六之続を差し置いていきなり七之続なわけです。

ところがですよ、七之続を読み始めていきなりの新事実。

おちかさんが居ない

富次郎という三島屋の次男(大学生くらいのスィーツ男子)が聞き手になってる。各話のアイスブレイク中に

「おちかも嫁に行って」

とか出てくる。
オイ! どこの誰やねん! あの身持ちがカタく恋愛関係にトラウマを抱えるおちかさんを落としたのは(下品)!

で、お前は誰やねん富次郎。

まあそれはともかく、前置き長めですみません。魂手形です。

あらすじ【魂手形】
■火焔太鼓
勤番で江戸に出てきている田舎の若侍が語る、寒村を守るため受け継がれる因習。その因習に進んで取り込まれた兄夫婦の話。話を聞き終わり一人になった富次郎は静かに涙を流し「もっと強い聞き手になろう」と決意する。

■一途の念
富次郎行きつけの団子屋台を引く若い娘が語る、亡き母親の話。胸の病で早世した父に似て役者のような美貌の3人の兄達に降りかかる運命。後日、いつも店を出していた場所に娘の姿は無く、代わりに長兄が団子屋台を出していた。富次郎は思う。もうあの娘には会えないだろうが残された兄妹四人、達者で暮らしてほしい。長兄の団子も少し味は違うが美味いじゃないか。

■魂手形
お化けを成仏させるため、そのお化けを伴って旅をする水夫(坊主だけどあの世への水先案内人ということで水夫(かこ)と呼ばれる職業。本当にボートを漕いでるわけではない)は最近無理が効かなくなってきた。体調を崩し思わず長逗留になった木賃宿で家業を手伝っている少年が、水夫に止められつつもお化けに変わって悪を懲らしめるスーパーヒーロー話。ちなみに語りに来たのは人生の終わりも近いが元気な老人で、自分が木賃宿の息子だったころの思い出話。富次郎は老人から「聞き手はずっと続けてください」とお願いされる。

このシリーズに出てくる怖い話は「悲しい話」「意外とほのぼの話」「お化けよりも人間の業が怖い話」など色々あるんですが、今回は、

火焔太鼓富次郎や読者に衝撃を与える怖い話だが語り手や当事者は淡々と受け止めている因習話。
一途の念救いがない話。アヴェンジャーズのスカーレットウィッチのような現実改編能力で周囲の者すべてに、あらまほしき嘘を見せていた母親の話。
魂手形:怖い話かと思ったら、実は救いがない悲しい話で、最後は少年の活躍(大暴れ)で意外とほのぼの話へと変化する物語。

という三者三様で、語り手も「参勤交代の側仕えで江戸に逗留する若侍」、「団子屋を一人で切り盛りする娘」、「粋でいなせな老人」と見事にわかれて、語り口も変わるし飽きのこない内容。いつもは口入れ屋の灯庵が語り手の斡旋を行っているので、連れてくる語り手も商家の大旦那とか若旦那とかお内儀とかご隠居とかお侍様とかまあまあ身元のしっかりした人ばかりですが、長患いの末に亡くなった母を思い泣いている団子屋の娘は、富次郎が「うちにきて話していきなよ」とスカウトしてきた斡旋外の飛び入りで目新しい。口入れ屋を介さないことで、ちょっと人選に工夫が見られます。さすがにドブ板長屋の垢じみた日雇い大工とかは出てこないですな。

それよりも富次郎ですよ。急に出てきたやん(いやテメエが3巻から急に7巻を読んだからじゃないか)。
とはいえ三島屋の次男なので居候のおちかさんよりははるかにここにいて違和感のない人物。
話を聞いたあと半紙に墨絵を書いて箱におさめてめでたしめでたしと、「聞いて聞き捨ておちかさん」よりもギミック多め。
いやこれはさすがに六之続・黒武御神火御殿伍之続・あやかし草紙を読まないとだめか!

それにしても、おちかさん、まさか嫁いでたとは。
Zm240913_02


| | | コメント (0)

2013年7月17日 (水)

ホーム&アウェイ

宮部みゆきさんの「泣き童子 三島屋変調百物語参之続」を読みました。
「おそろし」、「あんじゅう」に続く、三島屋のおちかお嬢さんが、市井の人の怖い体験談を、聞いて聞き捨て、語って語り捨てでお互い気持ちを軽くしましょうシリーズ第3弾です。
Zm130717_2
例によって、かなりのボリュームですが、宮部さんの本はサーーって読めちゃいますね。
遅読の私ですらこのスピードなので、早い人だと買ってきたその日に小一時間で読むんじゃないかと心配になるレベル。

毎回5話持ちかと思ったら、今回は6話来ました。ただ6話の中に、おちかさんが「立身出世の大立者三河屋の主人」の趣向「怪談語りの会」に招かれて、アウェーで4人もの怪談話を聞いて来るエピソードがあります。
ホームである黒白の間で聞いた話じゃないんで、あれをノーカンにしたら今回も5話、5人の語り手ってことでしょう。
(公式見解はわかりません)
今のところトータル15話。アウェーを入れると19話。

あらすじ【泣き童子】
■魂取の池
カップルを必ず別れさせる効果てきめんの池!

■くりから御殿
今は羽振りもまあまあの壮年の商人は、小さい頃故郷で大津波に遭遇した生き残り。天涯孤独で引き取られた屋敷で、少年は津波で死んだ子供たちと再会する。

■泣き童子
「三島屋のおちかさんに話を聞いてもらいたい」と、なかば死にかけの老人が息も絶え絶えに語ったのは、特定の状況で火が着いたように泣き叫び続ける幼子の、哀しく救いの無い物語。

■小雪舞う日の怪談語り
アウェーで4人の怪談を聞くのとは別件で、青野の若先生となかなか距離が縮まらないおちかのモヤモヤ話。

■まぐる笛
人を喰う魔物とそれを退治するモンスターハンターの話を、とつとつと語る東北の若侍。

■節気顔
放蕩の限りをつくし、もはや自分の命もいらないとばかりに明日もない暮らしをしていた男は、とある商人から節季の日だけ顔を貸してくれと頼まれる。取引は3両。それ以来、節季の日、1日だけ、体つきはそのまま、顔だけ別人になる暮らしが始まった。ぼんくらだったが飲み込みの早い男は、最初の1日目で、この怪異の利用方法を思いつく。放蕩を続けた男の無償の恩返しの日々が始まる。

「おそろし」も「あんじゅう」も、かなり怖い話オンパレードだったのですが、今回のストーリー郡は、わりとコミカルな味付けが多い気がします。「魂取の池」も「まぐる笛」も「くりから御殿」も、どちらかというとほのぼの系。

それでも「泣き童子」はヒドイ話しなんですけどね・・・
「節季顔」も、前段の放蕩暮らしがたたったとは言え、救いが無いんですけどね・・・

面白さを別として、お話の怖さで言うと、「ばんば憑き」の方が怖かったと思います。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年10月25日 (火)

髪結いの浅次郎さんが途中からイッコーさんで脳内再生され始めて困る

宮部みゆきさんの「おまえさん上・下巻」を読み終えました。
Zm111025

井筒平四郎のシリーズはどれもサスペンスやミステリーの味わいを出しながら、最終的には柔らかい着地をさせるので好きです。
あからさまな大団円は実は嫌いな方なんですが、井筒さんのシリーズはこれでいいです。いや、これがいいです。

あらすじ【おまえさん】
往来で背中から一太刀に切り殺されていた素っ町人。調剤室で背中から一太刀に切り殺されていた薬屋の主人。川に浮かんだ夜鷹の死体もまた、背中から一太刀で切り殺されていた。つながらない3人と犯人を結ぶのは何か?井筒平四郎の甥で河合屋の五男で超絶美少年の弓之助が、誰も気付かなかった犯人を推理だけで割り出す。

上巻も下巻も、そうとうなボリュームなんですが、まー宮部さんの本なので、難なくスイスイ読めます。

かといって平日午前2時まで読んではいけません。

今日は早く寝ます。
(でも残り200ページくらいになると、もうブレーキ踏めないですよねえ・・・)

平四郎、弓之助、三太郎、政五郎、お徳さんと「ぼんくら」「日暮し」からのレギュラー陣もいっさい欠けることなく登場し、満足の活躍を見せますが、さらに今作から河合屋の五男・弓之助の兄、三男・淳三郎と、平四郎とタッグを組む若い同心間島信之輔が加わり、物語により厚みをもたせてます。

超絶頭脳に加え、登場する女性陣をほぼ全員虜にする美少年・弓之助も、たいがいファンタジーなんですが、その兄の淳三郎はさらにファンタジーでした。

そうだ、今までの井筒さんのシリーズで、このキャラクターはいなかったですわ。美形はたくさん出てきた記憶はありますが、「美形で、コミュ力が甚大で、軽く(←ここ重要)、馬鹿っぽく見えて実は頭が良く、品がある」この難しいカテゴリーのキャラはいなかったですよ。
仮面ライダーフォーゼのジェイクに物凄い頭脳をプラスした感じ。

淳三郎、面白かったです。チラとだけ出てきた長男と、次男、四男の出番は今後あるのか?

で、今作の主役「間島信之輔」の登場です。

読む人によって違いはあると思いますが、私は間島様が主人公だと思ってます(井筒の旦那は進行役)。

最初の小さな乱闘事件に、目に鮮やかな十手術を引っさげて颯爽と登場し。
途中メイン事件とのかかわりにおいて懊悩し。
最後に謎のままだった十手術の最終奥義で締める。

カッコイイ!

・・・しかし・・・イケメンじゃないんですよ。むしろ顔の出来は作中で常に残念と評されるほど。

宮部さんの作品で主要キャラが容姿がよくないって珍しいですね。
平四郎がなにかにつけ「(これでもう少しだけ顔が良ければ・・・)」と嘆くほど。

【おまえさん上巻】
おまえさん一~十八

【おまえさん下巻】
おまえさん十九~二十一
残り柿
転び神
磯の鮑
犬おどし

最後まで読み終えてサブタイを並べると、「おお!」と、なかなか来るものがあります。

犬おどし、なるほどねえ。転び神、なるほどねえ・・・

磯のあわびの片思い・・・悲しいねえ。

面白かったです。お徳さんの料理描写が少なめなのがちょっとだけ残念。

井筒さんの次のシリーズがあるとして、間島様はもう出ないのかな。レギュラー陣というよりは、「主役にしてゲストキャラクター」そんな扱いです。

あと、絵に描いたような三男坊・淳三郎はあのままでいいんですが、弓之助さんはそろそろ進路を決めてほしいです^^

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年10月17日 (月)

新キャラも何人か出てきつつ

西遊記を読むかたわら、宮部みゆきさんの「おまえさん上下巻」を読んでおります。

「ぼんくら」、「日暮し」と続く、井筒平四郎シリーズの第3段。

今、上巻の6割がた読んだところ。

読み始めのあたりから、ずっと待ち焦がれ、想像をたくましくせざるをえなかった大黒屋が、やっと出てまいりました。

徐々に恐ろしい話に、なってきつつあります。

ウッカリすると徹夜しそうになりますので、途中で全然関係無い用事を挟んで、中断しつつ、極力じわじわ読むことにしてます。

なんですが、すでにして非常に危険なのめりこみ具合なのですよ。

おでこさんの過去話がチラチラ出てきてる時点で、もう気になって気になって仕方ない。

登場人物の中では相変わらず平四郎の細君が好きなのですが、今回も要所要所で笑わせてくれて、ダークな物語に少し箸休めとなってます。

それはそうと、井筒平四郎シリーズってこれで終わりじゃないですよね?

まだこの先続いて行きますよね?それだけが気がかり。

| | | コメント (0) | トラックバック (0)

2011年8月 1日 (月)

高反発まくら

Zm110801_01

宮部みゆきさんの「チヨ子」を読みました。
現代物の短編集ですが、ガチリアル物では無く、少し異界に入りかけのSF、ホラー、ファンタジーなどの作品集です。

とりあえず、宮部さんの作品はいつもそうですが、おもしろくてイッキです。

あらすじ【チヨ子】
・雪娘
雪の日に無くなった小学6年生の女の子。年月がたち、それぞれ大人になった主人公達の回想で女の子の死の真相が明らかになっていく。

・オモチャ
玩具屋の老主人が無くなって以降、商店街に起きる不思議な出来事。

・チヨ子
着ぐるみを着ての風船配りのアルバイトを引き受けさせられた女子大生が、着ぐるみののぞき穴から見た世界。

・いしまくら
公園の池に女子高生の死体が浮かぶ。犯人はすぐに捕まるが、女子高生の生前の行いにある事ない事噂を立てられて義憤に駆られた彼女の出身中学の女子中学生が、正義のためにルポをまとめようとするが。

・聖痕
神とは誰のことか?
神が現れると預言した預言者とは誰のことか?

出発点はものすごくありきたり(殺人事件がありきたりなわけは無いですが、SF作品としてはという意味で)な事件からはじまり、やがて予想外の展開に持っていくのは、さすがの宮部さんという感じで、「聖痕」などは後半の世界観の爆発的な転換ぶりは、寒気がするほどでした。
「雪娘」とか、「オモチャ」などは北欧民話のようで、しっとりとしてて読みやすく、読後の後味の悪さもありません。
「いしまくら」もシンプルな構造ですが、趣きがあってさわやかな読後。

宮部さんの小説は文章を書く上で、色々と勉強になります。

で、問題の表題作の「チヨ子」なんですが、

まさか、宮部みゆきさんの小説で、ガンダムやターボレンジャーの名前を目にするとは・・・
Zm110801_02

これが一番度肝を抜かれましたw

ちと思い立って「そのキャラが絶対に言わないセリフ」を言わせるテスト。
金田一耕助「ではそのときスケキヨ君はガンプラを造ってたとおっしゃるんですね?」
等々力警部「うむ、そうだね。ZZのクィンマンサで、素組みまでは出来ておったらしい」

ポアロ「そうですモナミ。wiiのコントローラーは一人の人間にしか握られてないのです」
ヘイス「ですがポアロ、ジョージ氏は慣れない3DSで3D酔いしたと言ってたはずでは?」

マープル「ねえバンドル、先週のヤンマガは頭文字D休載だったかしら?」
バンドル「いやあね、マープル、休載はプレボの彼女のカレラの方だわ」

まいどおふざけですみません^^

| | | コメント (2) | トラックバック (0)