そして誰それもいなくなった
三島屋変調百物語六之続の黒武御神火御殿を読みました。ずっと気になってたんですよ。くろたけ・ごじんか・ごてんという文字の並び、禍々しさ、文字の並びだけでは話の内容が想像もつかないけど凄そうというワクワク感。
その期待は裏切られませんでした。面白くてイッキです。ひといきに読みすぎてアレなんで、何度か読み返したりしてました。
なお、前の巻で「第一期・完結」。この巻から「第二期・富次郎編」だそうです。
富次郎一人体制になるや、口入屋の灯庵さん(ガマ仙人)から「お嬢さんはこの催しを真面目にとらえていたが、アンタ面白がってるだけだろう」と嫌味を言われるし、エピソードひとつひとつに右往左往して、おちかさんのような「落ち着いて話を聞く」というのにはかなり遠い。
そもそもガマ仙人から、
「これまでは聞き手がお嬢さんだったんで厳選して語り手を周旋してきたが、これからは加減を考えず人を寄越しますからな」
と先制パンチを貰ってます。
ちなみに怖い話は黒白の間で聞いて、そこで聞き捨て門外不出なので、口入屋があらかじめあらすじを聞いたりしてオーディションするわけではないです。灯庵さんはその語り手が嘘つきか真実を語る人かを見極めているだけだと。
富次郎「その人選のポイントを教えてくださいヨ」
口入屋「口入屋でもない米食い虫に教える義理はない」
米食い虫「口入屋秘帖というわけですねw」
ガマ仙人「そういう口の利き方が面白がってると言ってるんだ」
じっくり聞き、時に優しく時にするどく合いの手をいれるおちかさんに比べ、ちょっと軽口の富次郎君の方が作者の宮部さん的には話をころがしやすいのかなとメタ的なことを考えたり。
それにしても表題作、黒武御神火御殿…
まさかの『絶海の孤島ミステリ』!(少し違う)。
あらすじ【黒武御神火御殿】
■泣きぼくろ
というわけで富次郎一人体制に灯庵がいきなり寄越してきたのは富次郎の幼馴染で豆腐屋の末の息子。彼が10歳のころのお話で、しかも話の内容は艶話。豆腐屋の一家(両親兄弟姉妹に兄嫁次兄嫁、手代、次女の入り婿)の女性陣に、ほくろサイズのもののけが取り憑き男性陣に不貞を持ち掛け、やがて一家は離散した。
語り手「あの頃はガキだったんで何もわかってなかったけど、そういうことだったんだなって…」
富次郎「こりゃおちかに聞かせられないよな…」
■姑の墓
養蚕が盛んな村の高台にある墓所は絶景の花見ポイントだが女人禁制である。かつて語り手の何代か前の姑が「嫁をイビリ倒した挙句、毒殺し損ねて、悔しさのあまり墓所の丘で首をくくって死んだ」いわくつきの桜の名所である。特に嫁が足を踏み入れると姑の霊にたたられると言われる。実際過去に2人の嫁が高台から足を踏み外して転落死している。そんなのは偶然だ迷信だと、仲の良い嫁姑が桜シーズンに花見を決行して…
■同行二人
仕事に一途な飛脚は仕事柄、家を空けがちになる。留守の間に嫁と娘が病で亡くなった。自棄になった飛脚はよりスピードを上げ、のたれ死んでもいい勢いで仕事に精を出すが、配達途上にある峠の茶屋でのっぺらぼうの幽霊に憑かれてしまった。飛脚がどれだけスピードを上げても幽霊は着いてくる。いつの間にか飛脚は、泣きながら着いてくる幽霊を鼓舞し二人で箱根の山を駆ける。
■黒武御神火御殿
霞に覆われた迷路のような屋敷に、突如迷い込んだ年齢職業バラバラの6人の男女。囚われびと達の脳内に屋敷の主の声が響く。「悔い改めよ。灰は灰に、塵は塵に、そなたの罪を告白せい」と。そして声の主である黒い鎧の武者によって1人ずつ命を刈り取られていき…
三島屋シリーズは短編集なんですが、六之続はもう半分以上表題作の黒武御神火御殿です。黒武御神火御殿という長編小説に3つの超短編がオマケでついてる感じ。
オマケというとイメージが悪いですが、ほかの3つも面白い話です。
【泣きぼくろ】は幼馴染二人が大人になって思い返してみると「そういえばあのときの事件て、こういうことだよね」と思い至って気恥ずかしくなる話。富次郎君も(まさか黒白の間で『淫売』なんて言葉を聞くとは)などと冷汗三斗。最終的に百の物語がそろったとき、こういう艶話も一つは無いとおかしいかなという、すそ野を広げるエピソード。
【姑の墓】えぇ…宮部さんの時代物に出てくる嫁姑はほんとに関係性悪いですな。いいエピソードひとつもない。このお話も「因習なんてクソくらえの革新的な嫁」と「優しく物分かりのいい姑」の、前向きな因習乗り越え話かと思ったのに…まあこの流れだとそういうオチに行くよねと。誰一人幸せにならない、背筋が寒くなる話。語り手は明るく優しかった姑の娘。つまり語り手から見たら母親と兄嫁の話。
自身にも息子が出来、嫁が来て、つまり自分が姑になって、あの呪いから逃げられたか不安で仕方ないところ、富次郎君の口八丁で少し救われる話。
【同行二人】はもうスピード感というかドライブ感というか、まあ語り手がポジティブ(ネガティブだったけどだんだん元のポジティブが湧き出てくる)だとあんまり怖い話にはならないっすね。いい話。
そして表題作の黒武御神火御殿ですよ。これ、間違いなく長話になるんで、後編に続きます。
もの知らずなもので今回初めて知ったんですが、御神火って三原山の噴火・噴煙のことを指してるんですね。造語じゃないんだ…
そして三原山って江戸時代でさえも「あそこは昔、流刑地だった」と言われる古い歴史のある島だったようで。そんなところにいきなり囚われて、無事に逃げろというのが無理な話で…まあそもそも囚われの6人は屋敷の外にも満足に出られなかったわけですが…
とにかく話の筋も、語りに来る人も二段構え、三段構えの大作です。ほんとに劇場版で見たい。
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