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2024年10月20日 (日)

花嫁行列のシーンはちょっと泣けた

(今回勢い余ってネタバレ気味かもしれません。そしてもう少し短くまとめられないのかと反省)

宮部さんの三島屋変調百物語 伍之続 あやかし草紙の後半の感想行ってみたいと思います。
4巻の最終話「おくらさま」で貸本屋・瓢箪古堂の勘一さんは華々しくではなくそっと出てきて、何故だかおちかさんはのっけから気になる不思議な男というたたずまいでした。ウマが合う相手ということだったんでしょう。

あらすじ【あやかし草紙(後編)】
■あやかし草紙
貸本屋・瓢箪古堂の若旦那・勘一が語り手としてついに黒白の間に登壇。
勘一の父勘太郎が主に商いのメインで自身は見習い程度だった少し昔の話。瓢箪古堂の依頼で写本の内職をしていた浪人が、別な貸本屋『井泉堂』から百両という法外な報酬の写本の仕事を請けた。それはこの10年で市中にばらまかれた瓦版を閉じてある本を写し取る作業だった。仕事にかかる前、浪人は井泉堂から注意を受ける。
「字を見て写すだけでいい。文を読んで解してはいけない。読んでもいいが御身にとっていいことにはならない」
浪人はこの仕事の3年後に斬られて亡くなった。写本した瓦版には、未来において『瓦版に書かれるほどの自身の死にざま』が記されている。自然死や老衰等の生易しいものではない。後日その井泉堂から勘一にも「この仕事やりますか」と話を向けられたが、黒白の間で勘一は言う。

勘一「私は断りましたけどね。お話は以上です」
おちか「え? これで終わり?」

富次郎「まあ、原因不明のまま終わっちゃう話だってあるだろうさ」
おちか「(この人あやしい…)」

変わり百物語のルールでは、語りにくければ名前や出身地は偽っても構わないが、話を嘘で曲げてはいけない―――となっている。
貸本屋の勘一はオチのところで嘘をついたと、おちかは確信した。この話はカウント外だ。
数日後、次の語り手が来た。6人の男と結婚したバツ5の老婆の話で6人の男は全員同じ顔だった。いわば長い年月かけて一人の男に6回求婚され、添い遂げたような心持ちでもある。
もう充分生きたのでこの世の生にさほど興味が無いと明るく笑う老婆。
人生すべて味わったようなさわやかな笑顔…
この笑顔どこかで見た。そう自分の寿命を、人生をすべて知っているかのようなあの人と同じ笑顔だ。わたしはあの人に会いにいかなければならない。
数日悩んだおちかは貸本屋を訪ね勘一に告げた。
「あなたはすべて語り終えていない。長いのか短いのかわからないが、あなたの人生すべてを見届けたい。わたしを嫁に貰ってください」
勘一は一瞬驚いたが、あたかも知っていたかのように素直に受け入れた。

■金目の猫
三島屋の長男伊一郎が満を持して語り手として登場。富次郎は忘れていたが、兄は覚えていた子供の頃の話。三島屋の跡取り兄弟をそっと見守っていた金色の目をした猫の話。
年明けて一月、おちかが瓢箪古堂に嫁いで行った。

未来日記怖いですね。貸本屋の若旦那勘一は「このお話は以上です」と言うけれども、おちかさんには信じられない。昔の話から察するに、子供のころから好奇心旺盛だったこの人が、その写本の仕事を持ち掛けられて断れるわけがない。すでにその仕事を終え、自分がどういう人生を送るのか分かった男の顔だ。そう確信してプロポーズする流れが急でちょっとビックリしますが、おちかさん的には『わたしの読みが正しければ、目の前の人は誰と夫婦になるのか知っているはず』という賭けにみごと当たった感じで、勘一も答え合わせ完了という様子で飄々とプロポーズを受けてしまった。3年で斬り殺された浪人は、写本の仕事後は顔面蒼白で残される予定の娘のため出来る限りの準備を怠らなかった。その話と引き合わせても、勘一は生き急いでいる風もなく、いつものほほんとしている。実際に黒い人生なのか白い人生(もの凄い長寿で瓦版に乗るとか)なのか、おそらく勘一からおちかさんに話して聞かせることはないだろうが、一緒に生きていこう。そういう覚悟を決めた。物語の主人公としてはこれ以上無い成長の物語なのかもしれません。それと比べると全然薄っぺらい富次郎に主人公の座を譲るのはなんとなく理解できます。

次いで「金目の猫」。三島屋はおちかさんの嫁入り準備で大回転状態。特にすることのない富次郎のところに(正確には三島屋に)兄の伊一郎が奉公先の菱屋から一時帰って来る。
私以前七之続を読んで「誰なんだ富次郎!」と言っておりましたが、今回シリーズの既刊未読を立て続けに読み、感想をブログに書くにあたりうろ覚えなのもよくないと思い、昔のエピソードもパラパラと読んでると、1巻1話の時点で「三島屋にはもともと息子が2人おり、今は修行として奉公先に出ている」とか2巻2話にて「長男は伊一郎、次男は富次郎」「富次郎はおちかを見て、はやく家に帰りたいとこぼしていた」などと本人たちは出ないが噂話としてちゃんと出てくる。2巻2話という早い時点で今回の引継ぎまで考えていたとは思いにくいですが、キャラ造形は出来上がっていたようです。
さて「金目の猫」のお話自体はまあまあホンワカした思い出話で、兄弟の立場の違い、お互いを思いやっているのは間違いないが考え方の違いなど描かれており、今後の展開にも関係して来そうだなと。
いずれにしてもこのエピソードの締めくくり、おちかさんの花嫁行列はオールスターキャストで見ごたえありました。
※なお三島屋から瓢箪古堂までは3町(300㍍ちょい)です。
先頭を紋付袴の三島屋伊兵衛さん、ついで白無垢のおちかさん、手を取るのは川崎から駆け付けたおちかさんのおっかさん(泣きっぱなし@本格的に初登場)、両に控える紋付袴の伊一郎君・富次郎君は二人して三島屋の商い物を飾り付けた笹竹を肩にかつぎ(同じ格好の振り売りで一代を築いた伊兵衛の息子たちですよという町内へのアピール)、ずっと寄り添ってくれていた二人の女中おしまさんとお勝さんが形ばかりの嫁入り道具をさげてしずしずと続き、しんがりは三島屋伊兵衛の妻お民さんで、口上を述べながら続く(従者として丁稚の新太を連れて)。主な登場人物勢ぞろいでおちかさんという初代主人公をお見送り。ここは感動しますわ。お民さんの口上も美しい。
Zm241020
次の巻からとうとう富次郎君ひとりでお話を聞かなければならない。六之続・黒武御神火御殿(くろたけ ごじんか ごてん)に期待がかかります。

黒武御神火御殿ていうタイトルからして超大作の予感。

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