少しずつ次男へ移行
読書の秋ということで、現在、絶賛!宮部さんの三島屋変わり百物語シリーズ読んでしまえ期間です。
伍之続・あやかし草紙を読みました。
その昔、この本が初版で本屋に平積みされてたころ、
「おお、三島屋変わり百物語もとうとう嫁入り当日の娘が花嫁衣裳のまま語りに来たか!」
とか思ってたんですが、まさかこの表紙がおちかさん本人とは…
ちなみに嫁入り数日前の娘が語りにきたことはあります。(3巻1話「魂取の池」)
さて今更ながら思うんですが、三島屋主人の伊兵衛さんは道楽者ですな。川崎にある実家の旅籠を兄に任せ、江戸に出て来て袋物の振り売りで稼ぎ倒し、お針子だったお民さんを妻に迎え、三島通りに店(ノーブランドのバッグとおしゃれ小物の店)を構えるに至るところまでは立身出世の大立者といった感じですが、店も大店になり番頭や手代に店を任せはじめると囲碁に傾倒。屋敷奥に「黒白の間」という部屋をしつらえ、碁仇を迎えて昼間から碁三昧。今日も一局と思っていたところ大口の太客に急遽呼び出され、かと言って碁仇(この日は建具商の主人)を番頭の挨拶で追い返すわけにもいかず、姪のおちかに店主代理として挨拶させて、失礼なくお帰りいただこうと思っていたらその建具商主人・藤兵衛さんが庭の彼岸花を見て、若いころの苦い思い出を語り始める(1巻1話「曼殊沙華」)。
藤兵衛さんも語り終えたことにより胸のつかえが取れ、おちかさんもなにがしか知見を得た。伊兵衛は後になってこの経緯を聞き、この催しは面白い、店の宣伝にもなろうと「変わり百物語を黒白の間でお聞きします」と銘打って、不思議な話、怪異などを口入屋の灯庵(あだ名『がま仙人』)を巻き込んで集め始めた。これで、
・おちかのメンタルのリハビリも兼ねよう!
・ゆくゆくは実家の旅籠の女将としてのホスピタリティも養われよう!
というのが1巻1話であり、このシリーズの開幕話ですが、まあ伊兵衛さんがどんなに理論武装しても金持ちの道楽ですよね。
何か障りがあったときにと、隣室に「禍払いのお勝さん(黒髪柳腰の美人。普段は女中働き)」が控え(2巻2話「藪から千本」)、野次馬の富次郎がお勝さんの隣に座った(4巻4話「おくらさま」)。
伊兵衛さんは振り売りから大きな店にしてずっと傾くこともないほど、商いも手を抜かないし、碁を打つ部屋を作るくらい遊びも手を抜かない両方頑張る人なので酔狂の変人ではないですが、まあどんだけ言いつくろっても金持ちの道楽ですよね(笑)。仕事に真面目なところは長男の伊一郎に引き継がれ、道楽大好きなところは次男の富次郎に引き継がれたと思います。
とまあそんな百物語の経緯を書いてみましたが、百話の内まだ二十数話しか消化してないのにおちかさんに忍び寄る勇退の影、伍之続・あやかし草紙です。
前置きが長いですが以下なるべく簡潔に感想まとめたい所存です。
あらすじ【あやかし草紙】
■開けずの間
長女が離縁され生家の金物屋に返されて来た。息子の太郎は婚家に取られたまま。長女は太郎を取り戻すため、行き逢い神(簡単に言うと死神)と取引し取り戻そうとするが、そこから短期間で金物屋の家族9人に次女の許嫁、次男の妻子、家出していた放蕩長男をも巻き込み12人中11人が死んだ。語り手はその凶事で1人だけ生き残った末っ子で、現在はどんぶり飯屋の主人平吉。あまりの惨事に隣の部屋に控える禍払いのお勝の髪にも一筋白髪が出来る。
■だんまり姫
青物問屋の隠居夫婦に女中奉公する漁村の娘は耳が遠い老夫婦独自の身振り手振り(オリジナル手話)を覚え長く仕えたが、老夫婦が相次いで亡くなった。田舎に帰ろうとしていた娘は老夫婦の息子つまり青物問屋笹間屋の主人から新たな周旋先を紹介してもらう。奉公先はその藩の殿様の御側室が住まうお屋敷。御側室の娘である小さな姫君は、生まれてから一言も言葉を発したことがない。それまでは筆談が主なコミュニケーションだったが、「老夫婦の編み出した手話をマスターした女中」なら姫にその手話を伝授しつつ、身の回りの世話もさせれば万事はかどるだろうと声がかかり、実際重宝がられた。しかしその屋敷には28年前、10歳で亡くなった少年の霊が憑いており…
涙10リットルは出る話。
話が終わったあと、おちかも富次郎も泣く。
富次郎が一晩かけて描いた墨絵でもう一度泣く。
■面の家
語りに来たのは素行が悪く言葉遣いや礼儀もなってない貧乏長屋の子娘(不機嫌)。法外な給金に目がくらみ奉公に行ったお屋敷で繰り広げられる凶事に自慢の根性もすぐに萎え、数日でお屋敷を逃げ出した。
■あやかし草紙
1人目の語り手がオチのところで嘘をついた。おちかはそう確信したため、この話はノーカン。
2人目の語り手は長い人生の中で6人の男と結婚した老女。その6人の夫は全員同じ顔。
■金目の猫
三島屋の長男伊一郎が、満を持して語り手として登場。
いやちょっと待ってくださいな。ブログの記事を書くにあたりいつもテキストファイルにベタ打ちして、校正しつつ記事にアップするんですが、「だんまり姫」が濃厚すぎて、実はもっと特濃な表題作・「あやかし草紙」まで入れると長くなりすぎるので、取り敢えず前後編に分けます。「面の家」までは前編で感想書ききりたい。
とりあえず「開けずの間」の開始時点での富次郎は控えの間のお勝さんの横で、供された茶菓子の講釈を垂れながら聞き耳を立てる野次馬。黒白の間にお茶と茶菓子を運んでくるもう一人の女中おしまさんに「わたしのお菓子は3つにしてね」と催促し、お勝さんから「小旦那様には私のお菓子を差し上げます」とあやされてる。
さて語りに来たのが市中で評判のどんぶり屋の主人平吉で、自己紹介のどんぶり飯の話が始まるや否や唐紙障子を勢いよく開けて割り込んできて、「吾妻橋の<どんぶり屋>の日替わり飯こそが食道楽の極みだ(ドヤ顔)」などと恐縮する平吉をほめそやすグルメ道楽富次郎。そのままシレっとおちかさんの隣に座るが、そんなほんわかした開幕からは想像もつかない驚愕の一家皆殺し話(しかも一斉にではなく1人ずつ別な凶事)で、話し終わっておちかさん富次郎君ドン引き。当時は子供だった平吉がよく逃げ切れたなと。胸のつかえが取れた平吉の帰りがけ、お勝さんから「この禍事のもう一人の生き残り『長女の息子太郎さん(長女の死後早い段階で寺に出された)』に会いに行くと良いですよ」とのアドバイス。なので厳密に言うと13人中11人が死んだ。なんだかんだで次の話以降もおちか富次郎で語り手の話を聞くスタイルに。
そして次の「だんまり姫」ですよ。語りに来たのはおせいという名の飄々としたおばあさん。まだ娘だった昔、お仕えした藩の側室の娘(正室の方ではない)が声が出ない。おせいさんだけに存在が認知できる「亡者となってしまいお屋敷に憑いている10歳の少年」は言う。
「自分が原因なのはわかっている。自分が消えて無くなればあの娘は話せるようになるだろう。しかしここから離れる術を知らない」
まあさらに言えば自分が何者かは当然知っているし、28年前、藩が二つに割れた跡継ぎ騒動を納めるため、毒を盛られ三日三晩熱を出して死んだことも、毒を盛ったのが誰かも知っているがその者を恨んではいない。現在の殿様がもう一人の跡継ぎ候補で正室の子だった。自分は側室の子だったから仕方ないと言い、とはいえその娘が声が出ないのは心が痛むとも言う。
これはねえ、読んでて泣きますわ。ツライ。亡者が健気でツライ。すべてが終わって姫君も話せるようになるのでお姫様の周りの人からするとハッピーエンドですが、事情を俯瞰で知っているおせいさんやそれを聞いてるおちかさん・富次郎、読者は胸がギュっとなる結末。富次郎君が最後に描いた墨絵で少し救われます。
ついで「面の家」は小休憩話といっていい怖い話。大量の魍魎を封じているお屋敷の見張りを頼まれた娘の話ですが、「人間の心が怖い」とか「人間の想いが強い」といった前2話と比べるまでもなく平板(ツマラナイわけではないです)。語り手が口入屋の周旋を無視して無理やり上がり込んできた貧乏長屋の子娘で口も悪いが手癖も悪いで、しかも話しの途中で「もういい!」と言って一回帰った(笑)。後日長屋の差配さんに促されて今度は少ししゅんとした感じで語りに来る顛末が、このシリーズの新しい彩りとして記憶に残る話(「面の家」って、あーあのはねっかえりの不良娘がヒドイ目にあった話ね…みたいな)。おちかさんはここまで来ると相手がどんな状態でも語らせてしまうし、富次郎もなだめたりすかしたりちょっと脅してみたりとサポートとして有能。
富次郎が控えの部屋からおちかの隣、そして話を聞き終わってから墨絵を1枚描いて(絵を習ったことはある)、お勝さんに見てもらう流れが確立していく前半3話でした。
ということで、「あやかし草紙(貸本屋若旦那勘一の話と長寿の老女の話)」、「金目の猫(三島屋長男伊一郎の話)」は後編で。
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