どちらのオチだったとしても面白い
↑もちろん「面白い」の意味が変わってくるんですが
公共放送でこないだからやってる星新一さんのドラマ、面白いですね。
続きものじゃないオムニバスなので1本くらい飛ばしても影響ないですし、1本15分しかないので録りためておいてスキマ時間に見られるのもありがたい。
ここまで見てきた中ではコーラ・ケンゴさん主演の「地球から来た男」が出色。思わず3回くらい見ました。
主人公は産業スパイ。
忍び込んだ研究所であえなく捕まり、そこの研究者に告げられる。
「我々の研究しているテレポーテーション装置で、お前をはるかかなたの辺境の星まで飛ばしてやる。2度と地球には戻れない」
主人公は腕に麻酔薬のようなものを打たれ、どことも知れぬ荒涼とした丘の上で目が覚める。
そこは地球とまったく同じ環境の星。最初に出会った男(地球の犬によく似た生き物を連れていた)に尋ねる。
「ここはどこですか? 私は地球という遠い星からここに送られてきました」
「…ここも…地球ですよ」
偶然にも名前が地球というこの星は、わが故郷地球と同じような文明を持っていて何から何まで地球と同じだ。
かつての自分の家と同じ場所に同じように家があり、地球に残してきた妻子とそっくり同じ顔の人間が住んでいる。
ここまで見ていくとカンが鈍い男の滑稽なひとり相撲のように見えます。実際、視聴しながらつっこみまくりですし。
「いやそりゃ研究所の男に担がれてるよ。麻酔打たれてどっか郊外の丘の上に寝かされてただけでしょ」
とまあそういうちょっとブラックなコメディ話かなと思っていたら、主人公はなんとか最初に忍び込んだ研究所(によく似た建物と思っている)にたどり着き、くだんの研究者と同じ顔をした人物に出会う。
研究者によく似た男「大変申し訳ないのですが、そのテレポなんとかという装置はここにはありませんし、あなたのことも存じ上げません」
ここでちょっと見る人に「お?」と思わせる。
ほんとに担ごうとしてる研究者だったら、呵々大笑、まいったかと。命だけは助けてやる。二度と研究を嗅ぎまわるなよと。そういうリアクションが普通かなと。
「あなたのことは知りません」というのもとぼけ方としてありかもしれないが、冒頭の悪辣顔の研究者と同じ顔をした男の困惑顔はこの物語のひとつの山場だと思える。
もしかして本当に別な星なの?
主人公は懊悩する。あの研究者に見放されたら、私はもう故郷の地球に帰るすべ(テレポーテーション)がない。望郷への思いは断ちがたい。何から何まで地球と同じこの星で、私は独りぼっちなのだ。
コーラさんのもの凄い真面目な芝居と相まって、主人公がかわいそうになってくる瞬間である。
そして主人公の最後の独白が始まる。
(こんな私にも心休まる瞬間がある。同じように地球から送られて来た人物と出会えたのだ)
「あなたはどうやってこの星に来られたんですか?」
「私は税務署員でした。あの研究所に調査に行き、その装置にかけられ、気づいたらこの星にいました」
夕暮れの公園で、2人で缶ビール飲みながらしんみり会話しているところで物語は唐突に終わる。
①ずっとカン違いしたままの男の可笑しみを味わうブラックコメディ
②本当に何から何まで同じ星に一方通行で飛ばされた男の寂寥感に背筋が凍るホラー話
②と思って最初から見直すと、しみじみと悲しくて怖い話に仕上がってます。いや②のことを考え始めると、もう①のようには見えない物語になってます。
このシリーズ、あと何本あるんかなあ。他にも面白い話あるといいなあ。
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