昼行燈のつどい
「実は拙者は」という時代小説を読みました。
本当は三島屋変調百物語の四之続から六之続のどれかを求めて書店に行ったのですが、その書店には無かった。
代わりに平積みでおいてあったこの本が目に入り、奇抜なタイトルに引かれ手に取って目次をみたら、
もうヤバイ。面白そう。気になりすぎる。
というわけでレジまで一直線。その日のうちに読み切ってしまいました。
面白かった。
えーと、いつにも増してなるべくネタバレしないように書きたいと思いますが、真っ白な気持ちでこの小説を読もうと思っている人は以下スルー推奨。
あらすじ【実は拙者は】
棒手振りの八五郎は人に気づかれにくい地味な男。
そんな八五郎のまわりは最近やけにさわがしい。
・身分の高い侍だけを襲うが殺しはしない辻斬り「鳴かせの一柳斎」が出没し、
・金持ちから盗んだ金を庶民にばらまく「八ツ手小僧」が世を賑わせ、
・勘定奉行蓼井氏宗は金貸しの尾黒屋を操り、ニセ証文で負わせた借金のカタに集めた若い娘を黒吉原と称すいかがわしい場所に集めている噂がある。
・その噂を老中小清河為兼の命を受けた腕に覚えのある「隠密影闇同心」が追っている。
・一方ではその黒吉原の全容を将軍様直属の「公儀御庭番コンビ(忍者の頭目とくノ一)」がひそかに調べている。
時代は八代将軍吉宗の治世。
よしよし、ネタバレはしてないはず。
八五郎のいる長屋の住人たちは皆優しいが頼りない。
隣の浪人はいつまでも仕官の口が見つからないが、夜たまに不在。
友人である大工の辰三の家でよく酒を飲むが、この辰三の家は大工仕事と関係ない金持ちのお屋敷の図面がやたらとある。あと夜たまに不在。
なお八五郎は内職として市井のもめごとや変な噂等を定廻り同心に報告(岡っ引きの下っ引きのさらに下の犬と呼ばれる仕事。棒手振りは町内を練り歩いてて違和感が無いのでこの内職をする者が多い)して小遣いを稼いでいるが、この昼行燈同心が事なかれ主義であてにならない。情報は逐一入れろと言うが、聞くだけ聞いて何をしてる風でもない。あとたまに眼光が鋭い。
長屋の飾り職人の親方は好々爺でその娘の浜乃ちゃんも愛嬌があり優しい。町娘なのに体幹が強い。ただときどき親方と浜乃ちゃんのところに四十絡みの新さんと名乗る自称旗本三男坊がなれなれしく出入りしている。浜乃ちゃんも愛想よく応対していて八五郎からすると「なんだかあのヤロー気に食わないなあ」みたいな、ともかくにぎやかな長屋。
そうこうしてるうち飾り職人の親方が尾黒屋に騙されてこしらえた借金50両のカタに浜乃ちゃんが連れ去られてしまった。影が薄く誰にも見とがめられない八五郎は尾黒屋の屋敷に使用人顔で紛れ込んだり、尾黒屋が懇意にする勘定奉行蓼井氏宗を近距離から尾行したりと孤軍奮闘。
浪人「50両かあ・・・」
大工「50両かあ・・・」
親方「娘のことは心配してくれるな。今にどうにかする」
(↑あんまり真剣に心配してなさそう)
同心「何? 勘定奉行蓼井が町はずれの豪奢な屋敷に足しげく通っている? そんなこと調べても何にもならんだろう。だが蓼井の動向は細かく報告しろ。まあ俺は何もしないがな」
周りの連中はあてにならない。
と、このように登場人物の構成はシンプルで、正直なところ難しい謎もなく、サクサク読めていい感じ。
難しい謎というよりも裏の顔の人たちが皆、自分を除く表の顔の人たちを互いに把握してないのでシンプルな構成にたどり着くのにちょっとモメる感じ、そこがまた面白い。
何がとは言いませんが、
「暴れん坊将軍」と「大江戸捜査網(懐かしい!)」と「服部半蔵影の軍団(懐かしい!)」と「鼠小僧」といった昭和のテレビ時代劇がお互いを全然知らずコラボしてる感じです。
愉快犯かと思っていたら実は目的があった辻斬り含め、すべての人物の目的が一人の人物に集約していくのも素晴らしい。
ちょっとネタバレしますが、八五郎が最後まで実は何でもない一般人だったのも好感が持てます。必死に頑張る一般人が野に隠れた凄腕達を我知らず動かしていく様がかっこいい。
とにかくこんな物騒な連中に四方八方から付け狙われている金貸しと勘定奉行がかわいそうになるお話でした。
よしよし、ネタバレはしてないはず。
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