まさかの主役交代
魂手形(たまてがた)という小説を読みました。
宮部みゆきさんの続き物「三島屋変調百物語」の七之続つまり7巻目になります。
【そもそも三島屋変調百物語とは】
川崎宿の旅籠の娘・おちかさんが生家であったトラウマ(三角関係のトラブル。一人は殺され、一人は自死)を癒すため叔父が商いをしている江戸の三島屋で行儀見習いをしているところ、色々なことが重なって、来客がもたらす「本当にあった怖い話」を聞く役を務めることとなる。
百話聞くのはメタ的な俯瞰要素であり、おちかさん自身が「百話聞くぞ!」と目指しているわけではないです。
私は参之続「泣き童子」まで読んで、そのあたりから今の受験生生活が始まったので、このシリーズどころか小説をとんと読まなくなったのですが、ついこの間旅先で七之続を購入。読んでみようかなと思ったわけです。
なぜなら
①三島屋シリーズは短編集。1冊につき3話~5話ほど「怖い話」が1話完結で収録されており何巻のどこから読んでも問題がない
②七之続はなぜか収録話も小編3話しかなく手にとりやすかった
③旅先の割引キャンペーン(30%オフ)に乗ってお安く購入できた
そんなわけで①の理由もあり四之続~六之続を差し置いていきなり七之続なわけです。
ところがですよ、七之続を読み始めていきなりの新事実。
おちかさんが居ない。
富次郎という三島屋の次男(大学生くらいのスィーツ男子)が聞き手になってる。各話のアイスブレイク中に
「おちかも嫁に行って」
とか出てくる。
オイ! どこの誰やねん! あの身持ちがカタく恋愛関係にトラウマを抱えるおちかさんを落としたのは(下品)!
で、お前は誰やねん富次郎。
まあそれはともかく、前置き長めですみません。魂手形です。
あらすじ【魂手形】
■火焔太鼓
勤番で江戸に出てきている田舎の若侍が語る、寒村を守るため受け継がれる因習。その因習に進んで取り込まれた兄夫婦の話。話を聞き終わり一人になった富次郎は静かに涙を流し「もっと強い聞き手になろう」と決意する。
■一途の念
富次郎行きつけの団子屋台を引く若い娘が語る、亡き母親の話。胸の病で早世した父に似て役者のような美貌の3人の兄達に降りかかる運命。後日、いつも店を出していた場所に娘の姿は無く、代わりに長兄が団子屋台を出していた。富次郎は思う。もうあの娘には会えないだろうが残された兄妹四人、達者で暮らしてほしい。長兄の団子も少し味は違うが美味いじゃないか。
■魂手形
お化けを成仏させるため、そのお化けを伴って旅をする水夫(坊主だけどあの世への水先案内人ということで水夫(かこ)と呼ばれる職業。本当にボートを漕いでるわけではない)は最近無理が効かなくなってきた。体調を崩し思わず長逗留になった木賃宿で家業を手伝っている少年が、水夫に止められつつもお化けに変わって悪を懲らしめるスーパーヒーロー話。ちなみに語りに来たのは人生の終わりも近いが元気な老人で、自分が木賃宿の息子だったころの思い出話。富次郎は老人から「聞き手はずっと続けてください」とお願いされる。
このシリーズに出てくる怖い話は「悲しい話」「意外とほのぼの話」「お化けよりも人間の業が怖い話」など色々あるんですが、今回は、
火焔太鼓:富次郎や読者に衝撃を与える怖い話だが語り手や当事者は淡々と受け止めている因習話。
一途の念:救いがない話。アヴェンジャーズのスカーレットウィッチのような現実改編能力で周囲の者すべてに、あらまほしき嘘を見せていた母親の話。
魂手形:怖い話かと思ったら、実は救いがない悲しい話で、最後は少年の活躍(大暴れ)で意外とほのぼの話へと変化する物語。
という三者三様で、語り手も「参勤交代の側仕えで江戸に逗留する若侍」、「団子屋を一人で切り盛りする娘」、「粋でいなせな老人」と見事にわかれて、語り口も変わるし飽きのこない内容。いつもは口入れ屋の灯庵が語り手の斡旋を行っているので、連れてくる語り手も商家の大旦那とか若旦那とかお内儀とかご隠居とかお侍様とかまあまあ身元のしっかりした人ばかりですが、長患いの末に亡くなった母を思い泣いている団子屋の娘は、富次郎が「うちにきて話していきなよ」とスカウトしてきた斡旋外の飛び入りで目新しい。口入れ屋を介さないことで、ちょっと人選に工夫が見られます。さすがにドブ板長屋の垢じみた日雇い大工とかは出てこないですな。
それよりも富次郎ですよ。急に出てきたやん(いやテメエが3巻から急に7巻を読んだからじゃないか)。
とはいえ三島屋の次男なので居候のおちかさんよりははるかにここにいて違和感のない人物。
話を聞いたあと半紙に墨絵を書いて箱におさめてめでたしめでたしと、「聞いて聞き捨ておちかさん」よりもギミック多め。
いやこれはさすがに六之続・黒武御神火御殿や伍之続・あやかし草紙を読まないとだめか!
それにしても、おちかさん、まさか嫁いでたとは。
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