Nコン小説
中田永一さん(乙一さんの別名)の「くちびるに歌を」を読みました。
何年か前に新垣さんで映画化されてて、DVDを借りてきても、見るヒマなく返却ということばかりやってたので、この受験の終わったタイミングで小説の方を読んでみました。ボリューム的には短編と中編の間くらいなので、サッと読めるのが良いところ。
良い小説でした。そして新垣さんの役どころである柏木先生は、なかなかの脇役ですな。映画見てないんでなんとも言えないですが、映画CMを見る限りでは主役っぽかったので、そこは意外な発見。じゃあ主役は誰なのかと・・・
あらすじ【くちびるに歌を】
長崎県五島列島の中学に、産休の松山先生にかわりその友人柏木先生(教員免許を持ってるだけで先生としては素人)が臨時教師として東京からやってきた。松山先生が顧問だった合唱部の指導も引き継ぐ柏木先生だが、今一つ身がはいらない。それまで合唱部は女子しかいなかったが、美人の柏木先生目当てに「不真面目男・ケイスケ」、「柔道部掛け持ち・リク」、「親戚の工場で働く自閉症の兄の送り迎えをしなければいけないので部活などもってのほかだが合唱部に荷物を運ばされた際、密かに心を寄せる美少女コトミ(ソプラノ)に『入部するの』と声をかけられなし崩し的に入部するぼっちのプロ桑原サトル」他数名の男子が入部する。NHK全国学校音楽コンクール長崎県大会出場にあたり、低レベル男子も加わえた混声合唱で出るのか、実力者だけの女声合唱で出るのか、元からいるナズナ率いる混声反対派女子VSケイスケら適当新入男子(と男子に色めきたつ一部女子)という抗争になるが、やる気ないはずの柏木先生の「どうせなら、全員でやりましょ」の一言で、混声合唱で挑むことになる。「まあいろいろなこと」を経て合唱部はひとつのよりあわさった声となり、課題曲・手紙(byアンジェラ・アキ)以外に「柏木先生がとある事情で作っていた未完成曲にナズナとサトルで歌詞をつけた自由曲」も完成し、いざ長崎へ。しかし大会当日、松山先生が母子ともに危険な状態と知らされた合唱部員たちは・・・
もーーーーーー心持っていかれるわーーー。言いたいこといっぱいあって、いつになくあらずじ長いわーー。こんなの夜中にイッキに読んでしまうわー。
☆失踪父親がドクズなせいで男嫌いのナズナと、幼馴染の不真面目男ケイスケのつかず離れず感
☆サトルの隣の席のいかつい岩山のような柔道部リクが意外とクレバーでサトルに見せる優しさ感
☆1年のときサトルの後ろの席だった、学校の誰もが認める美少女コトミが実は闇を抱えてる感
☆そのコトミの、サトルを巻き込んだ危険な行動と縮まる距離感
☆ナズナがまだ小さかったころ彼女が落とした飴玉を拾って食べた言葉が通じない少年。そのとき母親はなんといってなぐさめてくれたかその言葉が思い出せない
☆サトルの兄(自閉症)は一度聞いた会話を忘れないという物語のかなめを握ってる感
☆中学生たちに比べ、空気感ハンパない柏木先生のぶっきらぼう感
すべてが小説の終わりにむけて収束していく様の美しさよ青春小説。
主役がナズナちゃんなのかサトル君なのかを考えますが、まあでも合唱部全員が主役だろうなあ。全員でひとつの歌になるというのがテーマでもあるし。
産気づいて母子ともに危険な松山先生のための不真面目男ケイスケの行動も素晴らしいしなあ。だから柏木先生まで濃いキャラじゃなくてもいいんや。大人は主役じゃないんや。
なおここまで読んできた皆さんには、かなりウェットな泣かせ小説のように見えると思いますが、ちょいちょい入るサトル君の独白などは「フフッ」と笑いが出るくらい、ウィットに富んでます。独白内で自嘲的に自分のことを話すとき「ぼっちのプロ」、「学校生活でぼっちの才能を開花させた」、「当時からぼっちの才能をにじませていたエリートぼっちの僕は」、「ぼっちの求道者である僕は」、「ぼっちの一級免許取得者の僕は」等々、彼の自虐は七色である。それでいてジメジメしてないし、文体がほのぼのしている。
「兄が自閉症で両親がいなくなった将来、誰かが面倒をみなきゃならないから僕は生まれてきたんだ。他の家庭の子たちのように愛情で生まれたわけじゃない。僕は計算で生まれてきたんだ。でもそれでいいんだ。兄がいなければ僕はこの世に生まれなかった」
という独白は、この文章だけ見るとなんと後ろ向きかと誤解されがちですが、むしろ前向き感にあふれ、読んでて暖かい気持ちになります。逆にナズナちゃんの独白はスピード感のある毒舌で、サトル君のパートと交互に出てくることで良いリズムになってます。ともに生い立ちのせいもあり、全編まあまあネガティブな文章のはずなのに読んでてシンドイどころかページをめくる手がもどかしいほど、ほほえましく楽しい。
骨太な小説でした。
やっぱり映画も見てみよう。
そして私は今からもうひとつのNコン小説「ブロードキャスト」を読むのでした。
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