哀れな被害者と哀れな犯人
↑犯人に同情すべき点は無いんですけどね
アガサクリスティーさんの「ハロウィーン・パーティ」を読みました。
ポアロ物ですが、これはタイトルに騙されますねー。
★名前にパーティと入ってて、なんとなくお気楽そう
★カタカナオンリーのタイトルで、なんとなくお気楽そう
★全体的に、深刻な事件じゃなさそう
と、もう、読む前から私の勝手な先入観で、後回しにしてたんですが、よくよく考えてみると、クリスティーさんの最後期の作品なんですね。
「五匹の子豚」とか、「象は忘れない」系の、人々のたわいもないかすかな記憶の集積が、犯人を追いつめていく作品だったわけです。
良い意味でスピード感が無く、しっとりと進んでいく物語は、重厚な味わいに満ちてます。
しっとり進んでいくなかで、少しずつあらわになる犯人のゲスっぷりも素晴らしい。
あらすじ【ハロウィーン・パーティ】
リンゴの木荘で開催されたハロウィーン・パーティが、盛り上がりを見せるさなか、13歳の女の子、ジョイスの溺死体が発見された。
溺死の方法は、バケツに張られた水に顔を押し付けられるという残忍なもの。
ジョイスはパーティの始まるまえ、参加者で推理作家のオリヴァ夫人の気を引きたい一心で、「昔、殺人現場を見たことがある」と声高に話していた。
虚言癖がある彼女の話を誰も信じない。ただひとり、過去に殺人を犯した該当人物を除いては。
ヘイスティングズがいない後期作品群で、ポアロの相手役をときどき務める、女流推理作家オリヴァ夫人の小説作法などに、めずらしく細かい言及があります。
このあたりはクリスティーさん自身の独白なのかとも思うんですが、小説中のオリヴァ夫人には
「実在の人物、たとえば友人知人などをモデルにして小説に出すことはしない」
と言わせ(クリスティさんも同様の発言をインタビューなどでなさってます)、じゃあオリヴァ夫人はクリスティさんをモデルにしたんじゃないのかと思わせる。
が、そうなると、オリヴァ夫人の発言も見方が逆になり、やはりクリスティさんをモデルにオリヴァ夫人が造形されてるんじゃんと思う。
が、いやいやそれだとその発言は……
と矛盾回廊に陥り、クリスティさんの「さあどっちだと思う? 悩め悩め」という笑い声が聞こえてきそうです。
お話にもどりますが、詰めの段階で、オリヴァ夫人のなにげない行動が、かつてのヘイスティングズ同様ポアロに天啓を与えていて見事。ただこれは
大好物のリンゴに、今回の事件によるトラウマが生まれ、食べられなくなったので、かわりになつめ(デイト)をたべるオリヴァ夫人
↓↓↓
それを漠然と見ていて、事件の根幹が日付(デイト)にあることに気づくポアロ
というダジャレがうまく行っただけで(失礼)、トリック解明にはあまり上手く機能してないように見えます。
とにかくゆったりと楽しめました。こういう読書もいいなあ。
クリスティものをずーっと長い年月(というほどでもないですが)かけて読んできて、残り少なくなり、なんとなく自分で読むスピードにブレーキをかけてる印象。
スポーツのようにガツガツ読んでいくのではなく、少し悠々と読んでいきたいですね。
残り13本!
14:もの言えぬ証人(ポアロ)
15:ナイルに死す(ポアロ)
28:鳩のなかの猫(ポアロ)
29:複数の時計(ポアロ)
46:スリーピング・マーダー(マープル)
53:謎のクィン氏(短編)
73:チムニーズ館の秘密(無印)
74:七つの時計(無印)
77:未完の肖像(ウェストマコット名義)
83:死が最後にやってくる(無印)
84:忘られぬ死(無印)
89:娘は娘(ウェストマコット名義)
91:愛の重さ(ウェストマコット名義)
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