そろそろ食わず嫌い(読まず嫌い)を治したい
昨日の出張の新幹線移動車中で、荻原浩さんの「メリーゴーランド」を読みました。
タイトルと、荻原さんの名前だけで、なんとなく『ハートウォーミングな恋愛物』かと思って敬遠していたのですが、割とスピード感のあるドタバタエンタメでした。
今回、荻原さんの作品を読むのは初めてです。エンタメ小説として面白いとひとづてに聞いたんで、とりあえず目に付いたのを買ってみました。
とにかく読みやすいですね。新幹線往復で全部サクッと読めるほど。
読みやすいというのは、「イージーモード」みたいで、内容が薄いんじゃないかと以前は思ってたんですが、昔の人のちゃんとした文学を読んで認識が改まりました。
読みにくい小説というのは、こ難しいことが書いてあるわけじゃなく、(自分のことを棚にあげて書きますが)文法が適当なのと、情景が描写しきれてないから読みにくいんだということがわかりました。
メリーゴーランドは読みやすいです。徐々に加速していき、中盤でトップスピードに乗り、読み手をあわてさせない程度に一気に減速していき、やわらかにゴールする。
トップスピードのころは、ところどころスラップスティックな感じがあって「え?」と思うところもあるんですが、それでも魅力は衰えず、序盤で気がかりだった3つほどの謎を、1個ずつ目の前に置かれていく感じはすばらしいのひとこと。
あらすじ【メリーゴーランド】
地方都市、駒谷市の市役所職員、啓一は、赤字テーマパーク「アテネ村」再建のため、運営会社ペガサスリゾート開発の「リニューアル推進室」に出向になる。
入り口の筆札を墨書すること以外に興味が無い丹波室長。
体育会系なのに熱意をまったく見せない林田。
気付けばそこに座っていて、主人公が心の中で「幽霊」と名づけている、紅一点、徳永。
茶髪ロン毛、モード系のスーツで、残業を頼もうとすると「今日、合コンなんっすよ」という、絵に描いたようなチャラ男、柳井。
この5人で、毎年膨大な赤字を出し続けるアテネ村を再建しなければならない。
このペガサスリゾート開発という運営会社こそが、ズブズブに腐りに腐った、駒谷市役所の天下り会社なわけです。カンの良い方はお気づきと思いますが、この会社の体質そのものが、「アテネ村」の赤字を助長しているわけです。
そもそも副理事長の発言「入場料を半額にして、去年より儲けてしまっては、最初の料金設定が間違っていたと判断されるじゃないか」がもう、ダメダメさを余すところ無く表現していると思います。
敵の腐敗具合がひどければひどいほど、エンタメ小説は生きてきます。倒しがいがあるというもの。
これを迎え撃つ(つまり再建を成功させなきゃならない)推進室のメンバー配置がすばらしいです。
非常に残念なのは丹波室長と林田が最後まで役に立たなかったこと。
やる気のなかった演劇部あがりの主人公に火が灯るのに呼応するように、外回りを厭わないチャラ男柳井(外に出ると自由にタバコが吸えるんすよwww)、感情が無いのになぜか積極的に動く幽霊社員徳永(無言。トータルでも原稿用紙1枚分の台詞も無い。無感情の理由はオチに絡んでくる)。
わりと早い段階で、市役所の実力者に柳井という重鎮がいるのは提示され、よほど適当に読み飛ばさないかぎり、チャラ男柳井には何かあるなと思わせます。が、実は座っている姿を主人公から常に「屈葬」とつぶやかれている徳永の方に重たい事情があり、加速した物語をぎゅっと収束させていく様が見事。
ここに書ききれないのですが、他に少なくとも3人は異能者が現れ、主人公を助ける(というか引っ掻き回した結果が成功への後押しになる)のも、エンタメ小説の手本のようで読ませます。
主人公が苦渋の決断で、アテネ村、園内キャストとして呼び寄せた劇団。学生時代所属していた、昼間絶対に外に出してはいけない危険な劇団「ふたこぶらくだ」がかつてやった演目「豆男の話」は劇中劇にしておくのがもったいない、重たい話で、ほんとにこれで短編一本書いてほしいくらい。
アテネ村再建が成るか成らないのかの部分はオチの重要な要素なので、ここには書きませんが、最後、夜の山頂に廃棄品をもらってきて建てた小さなメリーゴーランドの回る様が、美しすぎて、途中多少(いやかなり)ドギツかったお話を品よく締めて、いいです。
失われたしまうまのネクタイ
駒谷市(ペガサスリゾート開発)
メリーゴーランド
と、馬で統一されたキーワードも洒落てる。
実はそんなにハッピーエンドじゃないってとこも、個人的にはポイント高いです。
メリーゴーランドを見て涙をにじませる徳永の姿が、この物語にそっと潜んでいる悪役へのカウンターになってて、徳永にはいつか幸せになって欲しいなあと思う、苦い読後感。それも悪くない。
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