消せない過去
クリスティーさんの「死との約束」読みました。
めずらしく2部構成になっております。
1部は登場人物紹介と、その登場人物中あきらかに命を狙われてそうな人が死亡して幕。
2部でいよいよポアロさんが登場し、各人の証言のみで、心理学的に犯人を断定していく展開。
あらすじ【死との約束】
独裁者である母親と、末娘を除いて成人しているというのに自由を奪われている子供達。
家族旅行で訪れたエルサレムで高齢の母親は死んでしまう。母親の手首に注射の跡があり、居合わせたフランス人心理学者の薬箱から毒薬が盗まれるなど、殺人事件であることが明らかになった。
家族全員に動機があり、全員同様にアリバイが薄かった。
作中でポアロさんのことを第三者があの有名な私立探偵!的に表現するのに「ひらいたトランプ」や「ABC殺人事件」、「オリエント急行の殺人」などが引き合いに出され、穿った見方をすれば「そっち方面の犯人像?」と思わせるのですが実は犯人の正体は、引き合いに出されなかった作品群で扱われる「クリスティーさんの大好きなあのテーマ」だったりします。
私も結構ここまで色んなクリスティー作品見て来ましたので、あの記述のところで
「アッ!」
と気付かされました。
と同時に多くの怪しい人物が対象から外され、「犯人らしき人物」はぐっと絞られます。
あんまり書きすぎると、犯人バレはしないものの「犯人じゃない人たち」が特定できてしまいますのでこのへんで。
このテーマでクリスティーさんはあと何本書いているんだろう・・・先が楽しみではあります。
クリスティーさんは作品のラストのところでよくホームコメディのクロージングのような「登場人物が軽口を叩きあいながら幸せに終幕」というのをやるのですが、実は私の主観としては、重厚な作品が少し薄っぺらくなってしまうように思えて好きになれないのです。
が、今作はその甘ったるい展開が非常に心地よく読めました。
それだけ被害者である母親からあの子供達の受けた迫害がひどいと感じられたのかもしれません。
しかし・・・「死との約束」というタイトルの意味は今もってよくわかりません。
シンプルなタイトルを好むクリスティーさんのことなので、この日本語タイトルは単純に誤訳か直訳すぎるのかもしれません。
味わいはあるんですけどね、死との約束って。内容とはリンクしてないですね。
「起こるべき殺人」とでもした方が内容に即してる気がします。
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