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2009年9月24日 (木)

マープルの1ダース

アガサクリスティーさんの名作と言われる「火曜クラブ」を旅行の移動中にようやく読みました。
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マープルさんが登場する長編作品は全部あわせて12本しかありません。マニアの間ではこれを「マープルの1ダース」と呼ぶそうです。そしてマープルさんの短編小説はこの「火曜クラブ」1本きり。数が少ないだけに、中身の濃いものとなっております。
短編集なので、犯人の背負った深い業とか、各人の証言のスキマから来る真相の発覚といったダイナミズムは無いですが、ウミガメのスープ的水平思考クイズ集という趣きがあります。

あらすじ【火曜クラブ】
マープルの甥レイモンドが暇つぶしに友人知人を招いてはじめた【自ら見聞した不可解事件を披露して正解を競わせる会】その名も「火曜クラブ」。集まったのは元警視総監、老牧師、女流画家、弁護士、退役軍人、医者、女優等々・・・
元警視総監サー・ヘンリーは話が進むにつれ、毎回一人だけしかもいきなり正解にたどり着いてしまう老嬢マープルに尊敬の念すら抱き始める。
後日ヘンリーを訪ねたマープルは、村で起きた溺死事件の犯人が冤罪で、真犯人は別にいると訴えに来た。
「適当にやり過ごしても良い村の老人からの訴え」だったが、先日の12の物語を体験しているヘンリーは、マープルの訴えを受け入れ、事件を洗いなおす。

集まったメンバーは解答者としてもまともな解答はできず、出題するもマープルさんに必ず当てられ、いいところまったく無しです。
この短編集のキモは当然、最終話「溺死」です。最終話までの話は、元警視総監から見て何のとりえも無さそうなマープルという老嬢の推理が信用に足る物であると証明するための12本のお話。これもすなわちヘンリー卿に宛てた「マープルの1ダース」と呼んでいいのではないかと思います。

1話から6話までが、レイモンド主催の「火曜クラブ」に集まった6人が披露するお話。7話から12話までがバントリー夫妻(ミセスバントリーは「鏡は横にひび割れて」他に登場)の晩餐会にて突発的に始まった犯人当てで集まった6人から披露されるお話。
序盤は肩慣らし的な簡単な話が続き、後半に行くにつれ難解な事件で、しかも元警視総監や弁護士、退役軍人の話の方が簡単な話で、家庭菜園にしか興味のない主婦やト書きにすら「美人だが頭はカラッポ」と書かれている女優の話の方が複雑で難解というのがミソ。
特にバントリー夫妻の晩餐会の後半は

「話者が稚拙=ヒントが少ない」



「まわりの知識人が質問を繰り出し、次第に明らかになる真相」


というウマイ構成になってます。
ちなみに全然どうでもいい話なのですが、第1話で披露されるお話のメイドの名前はグラディス!

話を披露する順番は以下の通り。

第1話:火曜クラブ(元警視総監サー・ヘンリーの話)
同じ夕食をとった3人のうち、一人だけ食中毒で死亡。

第2話:アスタルテの祠(老牧師ペンダーの話)
衆人が見守る中、身を隠すところも無い平地にひとり立っているところを刺殺される男。

第3話:金塊事件(マープルの甥レイモンドの話)
金塊を積んだ沈没船引き上げ事業に取り組む男が何者かに襲われ、目覚めると金塊は跡形も無く消えた。

第4話:舗道の血痕(女流画家ジョイスの話)
若い夫婦と夫の昔の女友達。妻は殺されるが、夫にも女友達にも別個にアリバイが。後の某長編作品のプロトタイプ。

第5話:動機対機会(弁護士ペサリックの話)
金庫に保管してあった遺言状が白紙に変えられた。すりかえたい人物には機会が無い。すりかえる機会があったのはすりかえる必要のない人物。

第6話:聖ペテロの指のあと(村の老嬢マープルの話)
「鯉をひと山」。居合わせた全員が一旦はあきれたマープルの話は、あざやかに全員の度肝を抜くオチを決めて正解者無し。

第7話:青いゼラニウム(退役軍人バントリー大佐の話)
満月の夜、心霊術師の予言どおり夫人はベッドの上で死に、部屋の壁紙のゼラニウムは青く変色していた。

第8話:二人の老嬢(医師ロイドの話)
海水浴に来た資産家とその話相手という2人の老嬢。海水浴中に溺死したのは話相手の方だった。

第9話:四人の容疑者(元警視総監サー・ヘンリーの話)
命を狙われていた男が死亡。容疑者は秘書、姪、庭師、家政婦の4人。護衛のため前もって秘書に化けて潜入していたヘンリーの部下すらも容疑者から外せない超難問。

第10話:クリスマスの悲劇(村の老嬢マープルの話)
マープルが知り合った夫妻の妻の方が何物かに殺害されるがマープルが犯人と確信する夫にはマープルですら証人になれるほど強固なアリバイがあった。

第11話:毒草(ミセス・バントリーの話)
遺産を受け継ぐ予定の娘が死亡。原因は食材に紛れ込んだ毒草だが、それを摘んで来たのも死んだ本人だった。

第12話:バンガロー事件(女優ジェーン・ヘリアの話)
支離滅裂な語り口で解答者全員右往左往したあげく正解は出ず。しかし会が終わり去り際にマープルは女優に2言3言ささやく・・・

第13話:溺死
身重の娘が溺死体で発見され付き合っていた男が疑われるが、マープルはヘンリーに真犯人の名前を書いたメモを渡す。

前半の話は強引なトリックもあり、納得できないオチもあるんですが、後半の手に汗握る話へむけての「ビールの前のサウナ」くらいの気持ちで読み進めるのが吉。
3話の消えた金塊の行方と犯人5話の遺言状が白紙に取り替えられるトリックは期待してはいけません^^;
あくまで8話くらいから始まるミステリーへの助走と考え、広い心で読むべきでしょう。

そうは言いましたがトータルではクリスティーさんの他の長編に負けるとも劣らない名作であると思います。

さて続きまして「パディントン発4時50分」を読みます。
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トラベルミステリーなので、本当は旅行中にこっちを読もうと思ってたんですが、火曜クラブが面白すぎました!

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